【メディア】毎日新聞朝刊 静岡版 2017年2月26日

毎日新聞朝刊 静岡版 2017年2月26日

ひと・しずおか

ぬくもり感じる蒸留所
ガイアフロー社長 中村 大航さん(48)

 静岡市中心部から車で北へ約40分。安倍川上流に人口約1000人の集落「玉川地区」(静岡市葵区)がある。ここに昨年、「ガイアフロー静岡蒸溜(じょうりゅう)所」というウイスキー蒸留所を完成させ、製造に乗り出した。

 ウイスキーに初めて触れたのは、東京都内の大学に進み、大人への一歩を踏み出したときだった。折しも、バブル経済の絶頂期を迎えつつあった1980年代末。連日のように開かれるパーティーに参加し、ウイスキーの持つ多様な味を知った。

 卒業後、サラリーマン生活を経て、31歳で祖父の代から続く精密部品メーカーを継いだ。必死に働き、火の車だった経営も立て直した。同時に、起業家精神に火が付き、「いかに安く作るか」だけではない付加価値のあるビジネスに挑戦したいと感じ始めた。

 転機は、2012年6月に訪れた。スコッチの産地として有名なスコットランド・アイラ島と隣のジュラ島へ蒸留所巡りの旅行に出かけ、9蒸留所を見学した。中でも、世界中にファンがいる「キルホーマン蒸留所」に衝撃を受けた。05年開設だけに最新鋭の設備を想像していたが、小さく、ローテクで古い機材ばかりだった。「こんな馬小屋みたいな場所で、あの味を作っているのか。自分にもできる」と直感した。

 すぐにウイスキーの製造・販売を前提に、洋酒の輸入卸業を始めた。だが、業界経験や人脈がなく、注文が一件も入らない日が続いた。「このままでは蒸留所ができる前に倒産する」。そんな折に、NHKの連続テレビ小説「マッサン」(14年9月~15年3月)が放送されてウイスキー人気が再燃。各地で品薄になるや、注文が急増した。「国産ウイスキー製造の夢を追うストーリーに重なる。自分のために放送してくれたと思った」と振り返る。

 15年に「玉川地区には水がきれいで豊かな自然がある」と蒸留所の建設に着手し、翌16年に完成した。建材は地元産ヒノキを使い、外壁も景観にあう茶色の木目調にした。観光客が木材の持つぬくもりを感じ、見るだけでも楽しくなってもらおうとの思いを込めた。

 今、「地域振興にも貢献したい」との思いが募り、かつての自分のように、異邦人が訪ねる魅力ある蒸留所を目指している。幸い、この地域はウイスキーとの相性も合う食材が豊富で、例えば、里芋を練り込んだ生地で切り干し大根を包んだまんじゅうがお薦めという。世界から「ウイスキーの静岡」と認知されるその日まで、“静岡のマッサン”は工夫を続ける。【井上知大】

■人物略歴
なかむら・たいこう
1969年旧清水市(現静岡市清水区)出身。社名の「ガイアフロー」は、再生可能エネルギー事業での起業を計画していた際につけた。地球を一つの生命体と考える「ガイア理論」が由来。「ガイア」はギリシャ神話の大地の女神。問い合わせはガイアフロー静岡蒸溜所(054・292・2555)。


ガイアフロー 静岡蒸溜所の完成式
県産ウイスキー 本格稼働

洋酒輸入販売・製造を手がけるガイアフローグループは25日、昨夏完成したウイスキー工場「ガイアフロー静岡蒸溜所」(静岡市葵区落合)の本格稼働を記念し、完成式を開催。関係者約60人が静岡産ウイスキーの発展を祈った。

 同工場は約2000平方メートルの敷地内に蒸留器3基が入る蒸留棟と貯蔵庫の計2棟。昨年7月に完成し、1基は10月末から稼働している。式では、田辺信宏市長ら出席者が神事を済ませ、テープカットをして完成を祝福した。

 同社の中村大航社長は「日本に類を見ない蒸留所になった。いつか、静岡のウイスキーが世界に名をとどろかせると信じている」とあいさつ。田辺市長は「蒸留所の完成、中村社長の投資を起爆剤として市の発展に生かさないといけない」と語った。【井上知大】

■写真
「ガイアフロー静岡蒸溜所」の完成式でテープカットする中村社長(左から2人目)と田辺市長(同3人目)ら=静岡市葵区で

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