【メディア】朝日新聞 2016年9月16日 夕刊 一面

朝日新聞 2016年9月16日 夕刊 一面

個性派がお好きでしょ

ウイスキー 各地に小規模蒸留所

ハイボール人気やNHKの連続テレビ小説「マッサン」の影響などにより活況が続く国産ウイスキー業界で、小規模ながら個性的な味で勝負するクラフト蒸留所が注目されている。1980年代に手軽な値段で流行した「地ウイスキー」とは一線を画し、目指すは高品質の本格派。異業種からの参入も目立つ。

福島県郡山市の「笹の川酒造」は創業251年の今年、約25年ぶりの蒸留再開に向けて設備を新調した。社長の山口哲蔵さん(63)は「何年も熟成させるウイスキーには、1年ごとに時間が巡る日本酒とは異なるロマンがある」と話す。

戦後、進駐軍向けにウイスキー製造免許を取得。80年代は「チェリーウイスキー」が飛ぶように売れたが、89年の酒税法改正に伴う値上げで需要が低迷。蒸留をやめ、主に他社から買った原酒をブレンドしたウイスキーを売ってきた。

だが、「色々なウイスキーの味を楽しむ人が増え、市場が広がっている」と気づき、再開を決めた。きっかけは、国内唯一のウイスキー専業メーカー「ベンチャーウイスキー」(埼玉県秩父市)の肥土伊知郎さん(50)との出会いだ。

肥土さんはサントリーに勤務後、父の求めで家業の酒造会社に入った。日本酒や祖父が蒸留を始めたウイスキーを製造・販売していたが、業績不振で2004年に事業を譲渡することに。譲渡先は約400樽分のウイスキーの原酒の廃棄を決定。「『子供たち』が捨てられる。世に出したい」とつてをたどり、山口さんに買い取りを頼んだ。

海外で高い評価

翌年、肥土さんは笹の川酒造から「イチローズモルト」の名で600本を発売。売り切るのに2年かかったが、評判は愛好家の集うバーを中心に徐々に広まり、同じ原酒を使った別シリーズは海外のウイスキー専門誌で高く評価された。

04年には自身の会社を設立し、08年に秩父蒸留所で生産を始めた。麦を発芽させるのに一部手作業を導入するなど、小規模ならではの手作り感を大事にする。

兵庫県明石市の江井ヶ酒造は日本酒造のかたわら、1960年代にウイスキー製造免許の自社蒸留をスタート。淡路島を望む海辺に蒸留所がある。2007年から本格志向の「シングルモルトあかし」を売り出すと、愛好家を中心に反響が広がった。「海のにおいがする」とも評され、現在、年間約2万本を発売、フランスや米国へも輸出する。

社長の平石幹郎さん(65)は「各地の蒸留所のいろいろなウイスキーが話題になって、愛好家のすそ野が広がれば嬉しい」と話す。

異業種から参入

業界街から「ロマン」を求めて挑戦する人たちも。静岡市の洋酒輸入販売会社ガイアフロー社長の中村大航さん(47)は、精密部品製造会社の3代目。新規事業を探していた12年、本場スコットランドで創業7年の蒸留所を見学した。

小設備でローテクだが、そのウイスキーは日本でも話題だった。「小さなブランドでも、個性で世界展開できる」。川沿いの市有地を借り、この秋、蒸留所を始動する予定だ。

北海道厚岸町でも、東京の製菓原料輸入販売会社が秋の蒸留所稼働目指す。20年来のウイスキー愛好家という社長の樋田恵一さん(49)は「厚岸特産のカキに合う味を作りたい」。

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