【メディア】アスタモリス代表バート氏のインタビューがウイスキー通信に掲載されました

2016年4月25日 ウイスキー通信 NO.32

編集長インタビュー
アスタモリスのバート・ブラネルさんに聞く

新進気鋭のボトラーズ
アスタモリスの魅力に迫る!

近年ウイスキーが静かな盛り上がりを見せているベルギーで、 2011年、新たなボトラーズが誕生した。創業者のバート・ブラネルさんが来日したのを機に、樽の選定や瓶詰め度数へのこだわり、さらには新たなジン造りへの想いを編集長が聞いた。

土屋:バートさんはベルギーご出身で、2011年に「アスタモリス」というボトラーズを設立されたんですよね。もとからウイスキーには関わっていたんですか?

バート:ウイスキーとの出会いは1994年、私が19歳の時です。以来22年にわたってウイスキーに携わってきましたが、実は、その歳までお酒は一切飲んだことがなかったんですよ。

土屋:そうなんですか!?ベルギーと言えばビールなのに(笑)。ベルギーでは何歳からお酒を飲めるんですか?

バート:16歳です。でも私は飲む必要性を感じなかったんです。ところがある時、バーで働いていたカルロスという友人に勧められ、閉店後に一杯のウイスキーを飲ませてもらったんです。その 瞬間、雷に打たれました。あまりのおいしさに(笑)。そこから彼とウイスキーを飲むようになって、1999年には一緒にアイラ島にも行きました。でも、当時ベルギーに入っていたアイラモルトはブルイックラディ、ボウモア、ラガヴーリンの3つだけだったので、それ以外に蒸留所があるなんてまったく知らなかったんです。だから実際に行ってびっくりしました。他にもこんなに魅力的なウ イスキーがいっぱいあるじゃないかと(笑)。 一週間の滞在で完全にウイスキーの虜になってしまい、帰国し てからカルロスと共に「The Wee Dram Whisky Society」というウイ スキークラブを立ち上げました。設立して2年後にはメンバーも 100人くらいになり、その頃から自分でもウイスキーの記事を書き始め、2006年からは「モルトマニアックス」の審査員に迎え入れられました。ただ、審査員でいるためには中立の立場でいないといけないため、自分のボトリング会社を始める時に辞めました。

土屋:それがアスタモリスですね。最初のボトリングは何を?

バート:記念すべき最初のボトリングはベンリアックです。まだ会社をつくる前、サンプリングをしている時にたまたまその樽に出会って、飲んだ瞬間に衝撃を受けました。それで決めたんです。「この樽が欲しい。この樽を詰めるためにボトリング会社を立ち 上げよう」とね。それがアスタモリスで最初にリリースしたベンリアック1975のカスクNo.7227でした。私の生まれた年でもあるので、余計に欲しかったんです。

土屋:ちなみにアスタモリスってどういう意味なんですか?

バート:フランダース地方の言葉遊びみたいなものです。私の住む地域の方言では一応意味があるんですが、大した意味じゃありません。この名前にした最大の理由は、どの言語の人にとっても 呼びやすく、覚えやすい名前だったからです。英語でもフランス 語でも日本語でも、間違いなく発音できます。

土屋:たしかにアスタモリスってすごく言いやすいですよね。

バート:実はスタッフに聞かれるまで、社名が決まっていないことをすっかり忘れていたんです(笑)。でも聞かれた瞬間、アスタモリスという名前がパッとひらめきました。

土屋:今までに何本くらいリリースしているんですか?

バート:40 ~ 45種類くらいです。

土屋:樽は蒸留所まで足を運んで探すんですか?

バート:最近は難しいので、蒸留所のオーナーと商談を設けたり、 あとはブローカーを通すこともあります。

土屋:いい樽を見つけるのは、本当に難しいですよね。

バート:そうなんです。しかも私は本当にいい樽でなければ買わないので、気難しい顧客だと思われています(笑)。割合的には、サンプルを36種類もらって、その中の1本をボトリングするかどうかという感じです。会社規模が大きくないからこそ、自分の好きなものをとことん追求することができるんだと思います。

わずか1%の差にこだわって瓶詰め度数を決定

土屋:ボトリングはシングルカスクのみということですが、アルコール度数はいかがですか?

バート:もちろんカスクストレングスで出すボトルもありますが、 私にとってボトル選びはとても個人的なもので、自分が飲みたいウイスキーを自分が一番おいしいと思う度数でボトリングするのが信条です。だからすべてのボトルをカスクストレングス、もしくは46%、43%などの決まった度数でボトリングすることはあまり意味がないと思っています。子供の個性が一人ひとり違うように、ウイスキーも一つとして同じものはありません。たとえば今回持ってきたグレンマレイは47%ですが、私は度数を決めるために独自の方法を取っています。グレンマレイはサンプルの段階で度数が56%でしたが、そこから1%刻みで度数を落としながらテイスティングしていきます。加水をしながら49、48、47と落として いき、46%を試した瞬間に「あ、落ち過ぎた」と思い、もう一度47 %に戻してみました。それで飲んでみるとしっくりきたので、この樽は47%がふさわしいと確信したんです。非常にマニアックな作業だと思われるかもしれませんが、それくらいの情熱を持って取り組むべきだと思っています。

土屋:すごいこだわりですね(笑)。ガイアフローが出しているボ トルは「東海道五十三次シリーズ」など、どれも日本をイメージしたラベルですね。

バート:表ラベルは世界共通で、裏ラベルに浮世絵が描かれているのは日本限定です。今度新しく発売するボトルのラベルにはカエルがあしらわれているんですが、このアイデアは「ウイスキーフェスティバル2015 in東京」に来て思いつきました。ガイアフローがアスタモリスのシンボルであるカエルを大きく看板に使っているのを見てひらめいたんです。

土屋:カエルはもともと会社のデザインには使われていたんですね?

バート:そうです。最初のデザインは何もないシンプルなものだったので、もっとインパクトのあるものが欲しいとデザイナーにリクエストしたんです。それで彼がカエルを付け加えてくれました。今ではとても気に入っています。

土屋:ウイスキーには色々なラベルがありますが、カエルって珍しいですよね。

バート:私も変わり者なのでピッタリです(笑)。デザイナーのデイビッドとはとても仲良しで、考え方が似ているので、彼が上げてくるデザインは見た瞬間に「いいね!」となります。

土屋:東海道五十三次をラベルに使うのは、いいところに目を付けたなと思います。これは日本橋から順番にボトリングしているんですか?

バート:日本橋と京都の三条大橋の両方から順番に付けています。

土屋:五十三次が全部揃うのはだいぶ先ですよね(笑)。

バート:ボトリングしたいのはやまやまなんですが、アスタモリスのクオリティに見合うものじゃないといけないので(笑)。

土屋:バートさんは今どちらにお住まいなんですか?

バート:ベルギーの北西部、フランスとの国境に近い小さな町です。

土屋:ウイスキーのビジネスを始める前は何をされていたんですか?

バート:冷凍野菜の卸売業でした。でも今の仕事のほうがずっと好きです。ウイスキーのおかげでたくさんの国を訪れることができましたし、たくさんのユニークな人たちに出会いました。日本を訪れるのも4回目ですが、すっかり恋に落ちてしまっています。 これほど美しい国はありません。私が18歳の頃は、ベルギーを訪れる日本人観光客がカメラ片手に写真を撮っている姿を見ておもしろがっていましたが、40歳になった今、私は日本を訪れるたび に街中の写真を撮りまくっています(笑)。

土屋:日本の食事はどうですか?

バート:すばらしいです。お箸も最初は使えませんでしたが、完璧にマスターしました。その国の人と一緒にビジネスをするためには、彼らのカルチャーをリスペクトすることが大切です。ちなみに今の大好物はいぶりがっこです。あれにクリームチーズと醤油をかけて食べるとバツグンです(笑)。

土屋:分かりました(笑)。

世界的にも珍しい、ウイスキーの空き樽で熟成させたジン

土屋:それでは今回お持ちいただいたジンについても教えてください。

バート:これは「NOG」というジンで、「No Ordinary Gin」(普通ではないジン)の略ですが、NOGにはオランダ語で「More」という意味もあります。色を見てもらえば分かるとおり、普通のジンは無色透明ですが、NOGは違います。アスタモリスをボトリングしたあとの空き樽で熟成をさせているんです。

土屋:なるほど。おもしろいですね。

バート:ジンを造り始めたのは2年前ですが、それまでジンに興味はありませんでした。でもある日、アスタモリスのボトルを見た男の人がふと、「ウイスキーのようにそのままニートで飲めるジンがあればいいのに」と言ったんです。ウイスキーは買って帰ってボトルを開ければすぐに飲めますが、ジンの場合は氷やレモネ ードを入れて、ハーブやビターズを加えて、ようやくおいしく飲むことができます。その男の言うことはもっともだと思い、10ヵ月後にはこのジンが誕生しました。熟成をさせていないタイプは 「魂」という名前で日本に輸出しています。魂も普通のジンとは一味違って、よりフルーティなんですが、それをさらに8ヵ月ほど樽熟成させたのがNOGなんです。熟成によって、ジンが劇的に変わることが証明されました。

土屋:ジンの蒸留設備は持っているんですか?

バート:持っていないので、ベルギー国内で4つの蒸留所と提携して造ってもらっています。ジュネーブからベルギー、オランダにかけては昔から蒸留業が盛んな地域で、いい技術を持った蒸留所がたくさんあるんです。

土屋:ボタニカルのレシピはバートさんが選んで?

バート:はい、私のオリジナルレシピです。

土屋:4つの蒸留所はどんなレシピにも対応してくれるんですか?

バート:そうです。そんなレシピでは造れないと断られたことは一度もありません。

土屋:ちなみにどんなレシピなんですか?

バート:メインのボタニカルはタンジェリン、カカオ、モルト、ジュニパー、コリアンダー、アニスシード、スターアニスなどです。NOGができあがった時、ベルギーの一流バーテンダーにテイスティングをしてもらったんです。ウイスキーに関しては経験もあって何がおいしいか分かっていたんですが、ジンに関してはまだ自信がなかったので。最初は彼も半信半疑だったんですが、味見をしたらいいジンを造ったなと言ってくれました。それでNOGのバッチ1は評判になり、あっという間に売り切れてしまいました。

土屋:バッチ1はモートラックの空き樽に詰めて熟成させたものですね。

バート:そうです。同じ樽で2度目の魔法がかかったわけです。私は樽こそがウイスキーにとって一番重要な原料だと思っています。最高のスピリッツを最高の樽に詰めて寝かせれば、最高のウイスキーができ上がります。でもいくらスピリッツが良くても、 悪い樽に入れてしまえば悪いウイスキーにしかなりません。樽によってすばらしいウイスキーが生まれるなら、同じ作用がジンにも起きると思ったんです。私が買う樽はすべて最高品質の樽です。だからその樽にジンを詰めれば、おいしくなるという確信があり ました。

土屋:それはすばらしいアイデアですね。シェリー樽も使ったことがあるんですか?

バート:最近オーヘントッシャン1991の樽を出したので、それにジンを詰める予定です。それが初めてのシェリーカスクになりますが、試してみてダメなら捨てます。自分が200%気に入ったものじゃないと、ボトリングしたくありませんからね。

土屋:それは楽しみですね。ここからは実際にジンをテイスティングしながらお話を聞きたいと思います。まずは熟成させていない「魂」のバッチ1から。いい香りがしますね。味もおいしいです。普通のジンよりもすごくソフトでフルーティ、そして丸みがある。

バート:熟成させたNOGは、もっとまろやかですよ。

土屋:なるほど。蒸留直後のジンはアルコール度数は何度くらいですか?

バート:60%です。

土屋:じゃあそれを46%まで加水したんですね。

バート:一般的なジンは38%ですが、そんなのはジュースと一緒でアルコールとは呼べませんよ(笑)。私は強いスピリッツが好きなんです。

土屋:熟成させたNOGはよりフルーティ、よりシトラスを感じますね。すごくタンジェリーが効いている。未熟成のものはまだジュニパーなどの香りがしますが、NOGになるとシトラスのすごくフレッシュな香りがする。樽熟成でこんなに変わるんですね。これはすごい、ちょっと驚きですね。では未熟成の「魂」バッチ2も 試してみましょう。これはレシピも違うんですか?

バート:ジュニパーを15%増量しただけであとは何も変えていません。でも仕上がりは結構違うものになっています。

土屋:よりスパイシーですね。しかし、バートさんのところのジンは非常におもしろい。こういうものが造れる環境にいること自体がすばらしいし、うらやましいですね。日本で同じことをやろうとしても、ジンの蒸留所はないですし、自分で決めたレシピどおりに蒸留してくれって頼むこともできない。そういう意味でも大変貴重なジンだと思います。今日はいろいろとおもしろいお話、ありがとうございました。

バート:こちらこそ、ありがとう ございました!

 

バート・ブラネルさん
2006 年よりモルト・マニアッ クスの審査員として活躍し、 2011 年にインディペンデント・ ボトラーとしてアスタモリスを設立。繊細でデリケートなウイスキーを好み、カスクの選定には定評がある。2013 年よりオリジナルレシピでジンのプロデュースも手掛ける。

 

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【メディア】ウイスキー通信 No.23 2014 November アムルット蒸留所 ブランドアンバサダー アショック・チョカリンガムさんに聞く

ウイスキー通信 No.23 2014 November

編集長インタビュー
アムルット蒸留所 ブランドアンバサダー
アショック・チョカリンガムさんに聞く

なぜ世界は称賛するのか インド産ウイスキーの魅力に迫る!

9月に行われた東京バーショーのために来日したアムルットのブランドアンバサダー、アショク・チョカリンガムさんに、知られざるアムルット蒸留所の歴史や製造方法などについて、編集長がインタビューをした。

“インドのシリコンバレー”で生まれたアムルット蒸留所

土屋:アムルット蒸留所は、インド南部・カルナータカ州の州都バンガロールにあると聞いていますが、ここはどのような都市ですか?

アショク:人口約1,000万人の、多文化が入り混じる都市です。インドの5大IT企業であるTCS、Wipro、Infosys、Satyam、HCLのうち2社が本社を置き、残りの3社も支社を置いている、まさにIT業界の中心地と言える場所です。

土屋:いわばインドの“シリコンバレー”ですね。インドは多言語国家で14の準公用語があるといいますが、バンガロールでは、ヒンドゥーとは全く異なる言語を使用しているのですか?

アショク:はい。インドの公用語はヒンドゥー語ですが、バンガロールではカンナダ語を使用しています。全くヒンドゥー語とは違います。

土屋:なるほど。そのバンガロールからアショクさんは今回初めて来日されたそうですが、日本の印象はどうですか?

アショク:とても素晴らしいです。日本人はとても親切な人たちだと伺っていましたし、ウイスキー市場にも力を入れていて、消費者がウイスキーのことをよく知っていると感じます。どこにいってもウイスキーを見かけますね。ウイスキーというと今まではスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダの蒸留所を思い浮かべるのが当然でしたが、業界がここ30~40年以上困難としてきた「新たなカテゴリー」を日本が作ったことで、今や日本のウイスキーは無視できない存在になっています。実際ここ数年、ウイスキー雑誌を見ても日本のウイスキーは多く取り上げられています。そういう意味で、「美味しいウイスキーは世界中にあるのだ」という意識を、世界中の消費者にイメージづけました。私も日本のウイスキーメーカーに高い関心を持っています。

土屋:もう日本の蒸留所はどこか行かれましたか?

アショク:いいえ、まだです。時間がなくてまだ調整できていないので、インポーターの方に文句を言っているところです(笑)。次回は是非3~4日滞在日数を増やしてサントリーの白州や山崎、イチローズの秩父に行きたいと思っています。ドイツのウイスキーフェアなどで伊知郎さんにはお会いしたことがあり、良い友達づきあいをさせてもらっています。

蒸留所の歴史とインド神話

土屋:ところで“アムルット”とはどういう意味ですか?

アショク:世界最古の言語で、インド語のルーツとも言われているサンスクリット語で「Nector of Hindu Gods」(ヒンドゥーの神々の美酒)を意味します。ヒンドゥーの神話によると、「乳海」と呼ばれる原初の海に様々な素材を投げ入れ1000年撹拌して作られた酒があり、それを“アムリタ(=アムルット)”と言っています。そのアムリタは飲む者に不死を与えるとされる神秘的な飲み物です。そのためインド初のシングルモルトウイスキー蒸留所の名前にふさわしいと、この名前を選びました。

土屋:なるほど、不老不死の薬ということで“霊酒”と言っているんですね。1984年にアムルット蒸留所は創業したと聞きましたが、そもそも誰がどのような目的でつくったのですか?

アショク:私どもの創業者はラダ・クリシュナというものです。インドがイギリスの植民地だった頃に、ウイスキー造りが始まりました。インドで最古の蒸留所は、1820年代にヒマラヤでイギリス人のエドワード・ダイアーという人が作ったカソーリ蒸留所です。これがインド初の蒸留所ですが、ここからウイスキーを飲む習慣が始まり、今ではインドは世界で最も大きいウイスキー市場となっています。ラダ・クリシュナはこの蒸留ビジネスに興味を持ち、インドがイギリスから独立した翌年の1984年にアムルットを創業しました。彼は大学で科学を専攻し、ブレンディングやボトリングにも興味を持っていました。ラムを1975年に造り始め、1978年にはブランデーを、1987年にモルトウイスキーを造り始めました。ラム、ジン、ウォッカ、なんでも造っていました。現在はシングルモルトのアムルットのみを輸出していて、その他は国内で消費しています。

土屋:当初は連続式蒸留機でラムなどを造っていたということでしょうか。恐らく今はポットスチルを使用していると思いますが、その前は何を使い、いつからポットスチルを導入したのですか?

アショク:私たちは蒸留所内に3つの異なる設備を備えています。ラム、ジン、ウォッカなどはコラムスチル(連続式蒸留機)で造り、ブランデーだけはポットにコラムが付いている特殊なブランデーの蒸留機(アルマニャック式)を使っています。ポットスチルは1987年から導入しています。

土屋:なるほど。現在、ポットスチルはいくつあるのですか?

アショク:3つです。1基の初留釜(ウォッシュスチル)と2基の再留釜(スピリットスチル)を用いて2回蒸留しています。なぜ3つのスチルがあるかというと、もともとモルトウイスキーを造り始めた頃は、ポットスチルはストレートヘッド型の2基しかありませんでした。しかしもう少し異なるタイプの原酒もほしかったので、3基目は胴の部分がくびれたランタンヘッド型を採用しました。ラインアームも下方に付けられていましたから、ヘビーなモルトしかできなかったのですが、申し越しライトなものが欲しかったので、3基めのスチルはラインアームも上向きに取り付けています。

原料と特殊な製造方法

土屋:たしかバンガロールは標高1000m程の相当高地にあるかと思いましたが?

アショク:はい、アムルット蒸留所は標高900mのところにあります。

土屋:使用している大麦はどのようなものですか?

アショク:アムルットが使用している大麦は2種類あります。一つはインド国内のパンジャブ州やラジャスタン州で生産されているものです。特に北部のパンジャブ州はヒマラヤからの雪解け水があるので、大麦を育てるには理想的な環境です。しかし、この大麦はアルコール収量がヨーロッパ産に比べて劣ります。おそらくデンプン量が少ないのではないかと思います。そのため、1トンあたりから得られるアルコール収量は約340~350ℓ(100%アルコール換算)。スコットランドのものは約410ℓですから、そういう意味では、かなりイールドが低いと言えます。ただし、これを使うと全く違うテイストのウイスキーができるのです。もう一つはスコットランドから輸入しているスコットランド産大麦です。もちろん麦芽として輸入しています。

土屋:どこの会社から輸入しているのですか。それはピート麦芽ということですか。

アショク:インバネスのベアード社からで、ヘビリーピーテッド麦芽です。

土屋:2種類の麦芽の使用比率はどれくらいでしょうか?

アショク:たとえば、シングルモルトの“アムルット・フュージョン”は、インド産のノン・ピーテッド麦芽75%と、スコットランド産のピーテッド麦芽を25%の割合で使っています。しかしこれらを混ぜることは一切せず、それぞれ別に仕込み、蒸留、樽詰めしています。熟成後に初めてこのノン・ピーテッドモルトとピーテッドモルトをバーボン樽の中に入れてマリッジさせます。これとは別にアムルット・シングルモルト、カスクストレングス、インターミディエイト・シェリー、そしてポートノヴァなどがありますが、それらは100%インド産のノンピート麦芽です。そして、100%スコットランド麦芽を使用したのが、アムルット・ピーテッド・シングルモルト、ピーテッド・カスクストレングスなどです。

滞ることのない水資源と長時間発酵

土屋:仕込水はどこからですか、それとワンバッチの仕込量は?

アショク:蒸留所の水源は5㎞離れたココナッツプランテーションの中に300mの井戸を掘り、そこからくみ上げた水を100%使用しています。ワンバッチは0.9トン、麦芽900㎏で約4,850ℓの麦汁を得ています。一週間の仕込みは12回にに現在は設定しています。

土屋:イースト菌は何を使っていますか?

アショク:南アフリカのアンカー社製のドライイーストを主に使用しています。

土屋:発酵槽はどんなものを。

アショク:ステンレス製で容量1万ℓのものが6基。おそらく私どもは業界で最も長く発酵を行う蒸留所かと思います。発酵は7日間行います。

土屋:7日間ということは168時間。一体なぜ?

アショク:非常に低温で行う発行だからです。スコットランドは気温が低いので、単純にイースト菌を加えて発酵させるだけです。しかし、インドは気温が非常に高いので発酵は簡単ではありません。6基あるステンレス製の発酵槽はすべて、周りに温度を下げるためのウォータージャケットを取り付けています。発酵は15℃に冷やしてから始め、最終的には32~33℃で終えるという流れです。この温度調整があるため、長い時間がかかっているのです。

土屋:もろみのアルコール度数はどれくらいですか?

アショク:7%です。これを1基のウォッシュスチルに入れます。初留は9~9時間半。4,000ℓくらいのサイズにしては非常にゆっくりとした蒸留で、スローディスティレーションもアムルットの特徴です。再留も13~17時間かけています。

土屋:なるほど。それだけ銅との接触時間が長くなり、エステリーデピュアな酒質になるというわけですね。樽は何を使用していますか?

アショク:アメリカンホワイトオークの新樽、バーボン樽、これはファーストとセカンド両方を使っています。それにオロロソシェリー樽、ペドロヒメネスシェリー樽、そしてポート樽を使用しています。これら様々な樽をミックスし、ボトリングを行っています。私たちはすべてノンチル、ノンカラー、ノンフィルターで瓶詰めを行っていますので、色を見ていただければどれくらい自然で、ピュアなウイスキーかお分かりいただけます。

土屋:最終的なニュースピリッツとバレルエントリーのアルコール度数はいくらぐらいですか?

アショク:ニュースピリッツは75%でそこに水を加えて、バレルエントリーは63%まで落とします。

土屋:少しニューポットの度数が高いことを除けば、ほぼスコットランドと同じ手法ですね。ところで、アムルットでは今、シングルモルトしか作っていないですか。ブレンデッドウイスキーはどうでしょう?

アショク:両方造っていますが、ブレンデッドウイスキーはインド国内消費用のみです。輸出しているのはシングルモルトだけです。

“貪欲な天使”の分け前

土屋:モルトウイスキーの年間生産量はどれくらいです?

アショク:約20万ℓです。秩父は6万ℓと聞いていますので、その約3倍。少し大きいくらいですね。

土屋:思ったより少ないですね(笑)。夏場の暑い時期にも気候的に生産は可能ですか?

アショク:はい。先ほどの温度調整を行うことで、一年中ノンストップでつくれます。スコットランドの蒸留所は川から水を引いているので、水がなくなる夏は生産できないところがありますが、私たちは井戸水を使用するので、滞ることなく製造ができるのです。

土屋:ところでエンジェルシェアはどのくらいですか?

アショク:年間10%~16%、アベレージで12%くらいです。

土屋:すごい。台湾のカバラン蒸留所みたいですね。

アショク:そうですね。去年リリースした“グリーディエンジェル(貪欲な天使)”は8年間熟成させたので、樽詰め時360ℓだったのが、ボトリング時には274ℓが蒸散していて、わずか86ℓしか残っていませんでした。そこで「貪欲な天使」と名付けました(笑)。アムルット蒸留所はスコットランドとケンタッキーの中間くらいと言えますね。製造方法と原料はスコットランドによく似ていますが、湿度が低く、高温な環境はケンタッキー州と似ています。

土屋:実におもしろい!ちなみにアムルットのシングルモルトは輸出用だということですが、インドでは全く売られていないのですか?

アショク:少量ですが売られています。

土屋:インドではどのくらいの値段がするのですか?

アショク:アムルットのシングルモルトは2,200ルピー、フュージョンが2,700ルピー、ピーテッドが3,000ルピーです。1ルピーは、たしか日本円で1.78円くらい…。スコッチのシングルモルト、例えばタリスカー10年はインドでは5,900ルピーです。

土屋:それは150%の関税が含まれているということですね。

アショク:その通りです。

土屋:日本円にしてフュージョンが約4,860円、タリスカーが10,620円ですか。おもしろいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。ところで、アショクさんはバンガロールの出身なんですか?

アショク:いえ。生まれたのはマドラスですから、私も当初はバンガロールの言葉はわかりませんでした。

土屋:マドラスといえばタミル語ですね。インドは複雑ですね(笑)。

Ashok Chokalingam
アショク・チョカリンガム
アムルット・ディスティラリーズ社
ジェネラル・マネージャー
インターナショナル・オペレーション担当

2004年2月より2014年5月まで、イギリスに駐在し、アムルトのヨーロッパ地域のセールスを担当。
2008年ブラックアダーに提供したウイスキーがモルト・マニアックスのノン・プラス・ウルトラ賞を受賞し、欧州での知名度・人気を高めた。
2014年6月にインドに帰国し、バンガロール本社にて、アジア全域のセールスを担当している。

ウイスキー通信No.23_1-min

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