読売新聞 静岡版にて、静岡蒸溜所代表 中村大航とWWAの受賞、「100%静岡大麦」をご紹介する記事をご掲載いただきました!
昨冬、主原料の大麦 、水などを県産でそろえた「オール静岡ウイスキー」を完成させた。全ての材料を地元でまかなうウイスキーは希少で、国内外から高い注目が集まる。「商品化に向けて仕込みを増やし、世界中の人に静岡産ウイスキーを味わってほしい」
静岡市清水区出身。進学を機に上京し、大学時代は会員制交流の走りだったパソコン通信「ニフティサーブ」の設立に参画した。バブル景気真っただ中にある1980年代の東京を謳歌し、社会人との付き合いも多く、酒場を巡るうちに新宿・歌舞伎町のバーで行われた試飲会で本格的なウイスキーに感動を覚えた。
卒業後はサラリーマンを経て、かつて海軍技術者だった祖父が地元で創業した精密機械部品メーカーの3代目に就任。モノづくりに向き合う一方、ウイスキーへの関心は「マニア」とも自認するほど高まっていった。
2012年、ウイスキーの聖地・スコットランドのアイラ島に赴くと、島の蒸留所を巡るなかで05年開設のキルホーマン蒸留所に衝撃を受けた。「こんな古い機材で馬小屋みたいな場所から世界中にファンをつくっているのか」。小さな蒸留所のベンチャー精神に心を揺さぶられ、後に妻となる美香さん(42)に相談すると、「やってみたらいい」と背中を押された。
候補地を訪ね歩くなかで最適地と思い定めたのが、静岡市の中山間地「オクシズ」にある玉川地区だった。安倍川の伏流水、澄んだ空気、適度な寒暖差――。「スコットランドに似ている」と感じ、16年に総額6億円を投じて「ガイアフロー静岡蒸溜所」を設立。「オール静岡ウイスキー」の商品化を目標に掲げた。
最大の課題は地元産の大麦の調達だった。「夢だけ語っても相手にされないよな……」。そう覚悟しながら胸に秘めたウイスキー造りの思いを表明すると、近くの農家らが試験栽培に乗り出してくれた。今回完成した306本のウイスキーは、この時に収穫した貴重な大麦約1トンを仕込んで5年間寝かせたものだ。
今年3月には、英ロンドンで開かれた品評会「ワールド・ウイスキー・アワード」で日本最高賞を受賞。聖地で衝撃を受けてから10年余りを経て、世界の舌をうならせるウイスキー造りに邁進する日々だ。
市場に流通する規模になるにはさらに数年を要するといい、「徐々に完成度を高め、皆さんの手に取ってもらえるようにしたい」と誓う。「まだ半人前の作り手だが、ウイスキーの歴史に刻めるような価値を静岡から創造してみたい」