【コラム】ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準を解説します〜中編〜

【コラム】ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準を解説します〜中編〜

日本洋酒酒造組合にて、2021年2月にジャパニーズウイスキーに関する自主基準が制定されました。

ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準
http://www.yoshu.or.jp/statistics_legal/legal/pdf/independence_06.pdf

本コラム前編では、基準が制定された背景と経緯、その意味合いについて書きました。

基準の内容は、大きく分けて2つ

基準を一読しただけは分かりにくいかと思いますが、今回の基準では下記の2点について規定されています。

1)「ジャパニーズウイスキー」と表記できるための基準
2)「ジャパニーズウイスキー」ではないウイスキーが、日本的な商品名を使うための基準

中編では、1のジャパニーズウイスキーと表記できるための基準について、解説しましょう。
以下、青枠で囲まれた部分が、基準の中の項目の抜粋となります。


第 3 条(適用範囲)
本基準は、事業者が日本国内において販売するウイスキー及び日本から国外向けに販売するウイスキーについて適用する。

全世界で適用となる

今回の課題が、国内はもとより、海外で販売されているウイスキーで大きな問題になっているため、国内外を問わず、全世界で適用されます。

第 5 条(特定の用語の使用基準)
次の表の左欄に掲げるウイスキーの特定の用語の表示は、当該ウイスキーがそれぞれ同表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであるときに限り、当該ウイスキーに表示することができるものとする 。
特定の用語: ジャパニーズ ウイスキー

「ジャパニーズウイスキー」は、厳格な基準を満たしたウイスキーのみ

今回の基準では「ジャパニーズウイスキー」という表示をできる要件を、厳しく規定しています。ここに合致しないウイスキーは「ジャパニーズウイスキーではない」ことを何らかの方法で明示する必要があります。

製法品質の要件
原材料
原材料は、麦芽、穀類、日本国内で採水された水に限ること。

水は国内採取のみ、麦芽、穀類は外国産もOK

水については、国内で採水された水という基準がありますが、麦芽と穀類は、外国産で構わないことになります。国産の麦芽や穀類は外国産と比べて高価なため、ほぼ全てのウイスキーで外国産が使われています。

ジャパニーズウイスキーでも国内産の原材料が使われるケースは稀です。弊社のシングルモルト「プロローグK」では、原酒の50%超が国内産麦芽ですが、これは特殊なウイスキーと言えます。

なお、麦芽は必ず使用しなければならない。

焼酎や泡盛は、ジャパニーズウイスキーではない

麦芽の使用を必須としていることから、麹で糖化させた焼酎や泡盛はジャパニーズウイスキーとして販売できなくなります。

ここは今回の基準の大きなポイントのひとつです。

海外では、泡盛や焼酎など、日本の酒税法上でもウイスキーに該当しない原酒を樽熟成して、ジャパニーズウイスキーと称して販売している商品があります。外国の法律では、麹を使って糖化するお酒を想定していないため、糖化に関する規定が存在しない場合があるからです。

個人的に、ウイスキーにはウイスキー造りの作法があると考えています。他のお酒の造りの常識を持ち込んでウイスキーを仕込んでも、美味しいウイスキーはできないと感じます。そもそも他の種類として造られたお酒は、その本来の名前で販売されるべきではないでしょうか?

製法
製造
糖化、発酵、蒸留は、日本国内の蒸留所で行うこと。

輸入した原酒の使用は、不可

日本国内で実際に製造した原酒のみ、ジャパニーズウイスキーに使えることになりました。

スコッチウイスキーは元より、国外で製造された原酒は使えません。

多くのブレンデッドウイスキーなどは、海外から大きなタンクで輸入した原酒をブレンド、加水し、ボトリングした上で、和風な商品名やパッケージにして、日本で製造されたかのような日本風ウイスキーとして販売されてきました。そういう商品は、ジャパニーズウイスキーを名乗れなくなります。

グレーン原酒も国内製造に限る

これはグレーンウイスキーにも適用されます。

グレーンウイスキーは、販売価格を下げるため、とうもろこしなどを主原料として、大規模な生産に適した連続式蒸留機で製造される場合がほとんどです。非常に多額の設備投資が必要となり、その稼働にもコストがかかり、生産されるグレーンウイスキーの量も多量になります。そのような設備は、業界として総量規制を設ける考えがあるため、免許の取得以前に、設備の設置自体に財務大臣の許可が必要となっていて、簡単には参入できません。

しかしながら、グレーンウイスキー自体は単式蒸留機でも造ることはできます。生産量は少なく、製造コストも上がってしまうため、販売価格は上がってしまいますが、グレーンのジャパニーズウイスキーは小規模でも製造できます。実際に、鹿児島の小正醸造さんでは、焼酎用の単式蒸留機で2回蒸溜することで、グレーンウイスキーを製造されているそうです。

販売価格が高くても、クラフトのシングルグレーン・ジャパニーズウイスキーやブレンデッド・ジャパニーズウイスキーに価値があると認めていただければ、ひとつのジャンルとして育っていくことになるでしょう。

熟成、瓶詰は、蒸留所でなくとも良い

熟成、瓶詰は後述する内容になりますが、本項には含まれていません。つまり、国内の蒸留所で行わなくて良いということです。

弊社のような小規模な蒸留所は、糖化から瓶詰まで一貫して蒸留所内で行うことが多いでしょう。しかし、ある程度大きな規模のメーカーになると、熟成と瓶詰はそれぞれ別の場所で行うことが普通です。

貯蔵
内容量 700 リットル以下の木製樽に詰め、当該詰めた日の翌日 から起算して3年以上日本国内において貯蔵すること。

熟成は3年間以上の規定が復活

熟成の期間が、3年以上と規定されました。

樽での熟成は、製造工程の大切な一部です。しっかりとした基準を設けることで、熟成の品質を担保することができます。

スコットランドのウイスキーをお手本とした日本のウイスキーは、熟成についても3年以上という、スコットランドと同じ基準を取り入れていました。

実際、1953年に酒税法が改正されるまで、熟成期間3年以上という規定が存在していました。戦後の経済の急成長時代に、ウイスキーの供給量を増やすために規制緩和で撤廃されたという経緯になります。元々は存在していた規定を、復活させた形になります。

また熟成の工程も、日本国内において行うことが規定されています。海外で追加熟成をしたものや、そもそも海外で最初から熟成したものは認められません。

貯蔵
内容量 700 リットル以下の木製樽に詰め、当該詰めた日の翌日 から起算して3年以上日本国内において貯蔵すること。

樽サイズを制限して、熟成の品質を担保

700リットル以下の木樽という部分もスコットランドに準じます。

樽の容量は、熟成の早さに関係します。小さい樽ほど早く、大きい樽ほどゆっくりと熟成が進みます。原酒の体積に対して、樽と接する表面積の比率が関係しています。弊社でも50リッターのオクタヴは、200リッターのバレルより、熟成が早く進みます。

樽の容量は、樽から原酒が大気中に揮発する現象である「天使の分け前(エンジェルズ・シェア)」にも関係します。天使の分け前は、小さい樽ほど大きく、大きい樽ほど小さくなります。これも熟成と同じく、体積と表面積の比率の違いに起因しています。

空間の利用効率や、コストという点では、大きい樽ほど良くなりますが、熟成は遅くなります。小さい樽は、場所やお金はかかりますが、熟成は早くなります。スコットランドと同じ基準を導入したことで、世界的に通用する基準だと言えるでしょう。

自由に木を使えるのは、日本ならでは

使用できる木の種類については、スコットランドがオークに限っているのに対し、今回の規定では自由度が認められています。栗や桜や杉といった樽を実際に使っている日本の実情に即した内容です。

瓶詰
日本国内において容器詰めし、充填時のアルコール分は 40 度 以上であること。

ボトリングも国内にて行うこと

ジャパニーズウイスキーは、ボトリングも日本国内にて行わなければなりません。

ここはスコッチウイスキーよりも厳しい規定になっています。スコッチウイスキーのシングルモルトについては、このようなスコットランド内でボトリングする規定があります。

一方、ブレンデッドについては英国政府の認証を受けた業者に限り、国外でのボトリングが認められています。しかし、ジャパニーズウイスキーの場合は、ブレンデッドであっても日本国内でボトリングしなければなりません。

これは、スコッチウイスキーが6,000億円超も国外に輸出されているのに対し、ジャパニーズウイスキーは輸出が増えたとはいえ、300億円に満たないという、規模の違いも関係していると思います。

瓶詰
日本国内において容器詰めし、充填時のアルコール分は 40 度 以上であること。

アルコール度数は40度以上に

アルコール度数も、スコッチウイスキーと同じ40度以上となりました。

2  特定の用語は、「ジャパニーズ」と「ウイスキー」の文字を統一的かつ一体的に表示するものとし、「ジャパニーズ」と「ウイスキー」の文字の間を他の用語で分断して表示することはできない。

「ジャパニーズウイスキー」で、ひとつの単語

「ジャパニーズウイスキー」で単語扱いとなるので、途中に他の語を入れることは許されません。

○ ジャパニーズウイスキー
○ ジャパニーズ・ウイスキー
○ JAPANESE WHISKY
○ JAPANESE WHISKEY
○ クラフトジャパニーズウイスキー
× ジャパニーズクラフトウイスキー
○ モルトジャパニーズウイスキー
× ジャパニーズモルトウイスキー

3  第 1 項に定める製法品質の要件に該当するウイスキーについては、公正競争規約に則り表示する ことができるウイスキーのタイプ名を示す用語を特定の用語に併せて使用できるものとする。

タイプを表す単語を付加することは許される

そのウイスキーが、どんなタイプなのかを表す用語を、併せて表示することは許されます。

○ 基準で許される表示の例

モルトジャパニーズウイスキー
シングルモルトジャパニーズウイスキー
ストレートモルトジャパニーズウイスキー
ピュアモルトジャパニーズウイスキー
グレーンジャパニーズウイスキー
シングルグレーンジャパニーズウイスキー
ブレンデッドジャパニーズウイスキー

第 6 条(特定の用語と誤認される表示の禁止等)
第 5 条に定める特定の用語の表示は、日本ウイスキー、ジャパンウイスキー等の同義語で表示する場合、外国語に翻訳して表示する場合又は、種類、タイプ、型若しくは風等の表現を行う場合であっ ても第 5 条に定める製法品質の要件に該当しないときは表示することができない。

「ジャパニーズウイスキー」に該当しない商品は、類似した表示も不可

ジャパニーズウイスキーに該当しない商品は、「ジャパニーズウイスキー」に似たような表示を行うことが、日本でも外国語でもできなくなります。該当していれば、許されます。

対象となるジャパニーズウイスキーの同義語の例

日本ウイスキー
ジャパンウイスキー
日本風ウイスキー
JAPAN WHISKY


以降、後編へと続きます。

後編では、「ジャパニーズウイスキー」ではないウイスキーが、日本的な商品名を使うための基準について解説します。

アムルット「バギーラ」、静岡蒸溜所で限定販売!

インドのアムルット蒸溜所から、限定商品がリリースされました!
その名も、「バギーラ」。シェリー樽でフィニッシュをかけた逸品が、グラス付きで登場です。こちらは限定商品のため、日本には60セットのみの入荷。静岡蒸溜所の見学ツアー参加者のみが購入できる、特別商品です。蒸溜所見学にお越しの際は、ぜひチェックしてみてくださいね♪

本日は、アムルットのグラス付き限定商品「バギーラ」のご紹介です。


アムルット「バギーラ」、静岡蒸溜所で限定販売!


インドの南部バンガロールにある、アムルット蒸溜所。
ウイスキーの蒸留所としては世界で最も高い場所である、標高920mに位置しています。
年間の総雨量は860ミリに達し、夏の気温が30℃以上、冬は10℃程度という温暖な気候のバンガロール。
そんな環境下で熟成するウイスキーは、スコットランドと比べ、3倍の早さで熟成が進むと言われています。

アムルットといえば、インド産の麦芽を100%使用したインディアンウイスキーや、フュージョンなどで知られていますが、それだけではありません。不定期でリリースされる限定の商品は、世界中から注目の的。
オレンジ風味のウイスキー「ナーランジ」や、新樽やフレンチオーク、シェリー樽でフィニッシュをかけてヴァッティングした「スペクトラム」など、新しい試みを発表しています。

そんな中、グラス付きの特別な商品としてリリースされたのがこちらのバギーラ。

アムルット インディアン シングルモルト ウイスキー バギーラ シェリーカスク フィニッシュ 46%
AMRUT INDIAN SINGLE MALT WHISKY BAGHEERA SHERRRY CASK FINISH 46%

バギーラとは、ヒンズー語で「黒豹」を意味する言葉。
気になる中身は、インド産のノンピーテッド麦芽を99%、残りの1%はピーテッド麦芽を使用し、さらにシェリー樽でフィニッシュをかけたもの。ピーテッド麦芽の使用量はほんのわずかですが、驚くほどの存在感を示しています。また、シェリー樽でフィニッシュをかけたことによる、リッチな甘みも癖になります。

【テイスティングノート】
香り:クルミやアーモンドのようなナッツの香りと、キャラメルのような香り。

味わい:ピーティーでスモーキーな味わいの中に、バニラビーンズやトフィーを感じる。オレンジやアプリコット、桃を思わせる特徴的なフルーティーさ。そこに新たに加わるのが、甘栗のような栗の味わい。なめらかな味わいが口の中に程よく広がり、トフィーのようなコクのある甘さ。

余韻:とても長く、バニラのたっぷりとした香りが広がる。次第に厚みを増すスモーキーさも。

付属のグラスは、アムルットのロゴが刻印されたオリジナル品。このサイズだと、ついつい氷を入れたくなりますが、ストレートがオススメです!
たっぷりとしたグラスに、色味のしっかりとしたバギーラをワンショット。シェリー樽由来のドライフルーツのような香りが、グラスから立ち上ってきますよ♪
まだまだ寒い日もある、今日この頃。お好みの量のお湯を注いで、ホットウイスキーもいいかも。

日本には、限定60セットの入荷です。販売は、静岡蒸溜所のみ!!!(見学ツアー参加者に限ります)
蒸溜所見学のお土産に、ぜひどうぞ。
ガイアフロー静岡蒸溜所 見学ツアー

【コラム】ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準を解説します〜前編〜

【コラム】ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準を解説します〜前編〜

ガイアフロー静岡蒸溜所 代表の中村大航です。

本日、待ちに待った「ジャパニーズウイスキーの定義」が、日本洋酒酒造組合から発表されました。その経緯、内容が分かりにくいと思いますので、明文化されていない情報を加味して、私なりの言葉で3回に分けて解説したいと思います。

まず、前編では、基準がつくられた背景や経緯、その意味合いについて書いています。


日本洋酒酒造組合とは

全国のウイスキー、ブランデー、スピリッツ、リキュール、甘味果実酒及び雑酒(性状がみりんに類似するもの)のメーカー82社が加盟する、業界団体です。

日本洋酒酒造組合 公式サイト
http://www.yoshu.or.jp

サントリー、ニッカ、キリン、本坊酒造といった大手はもちろん、ベンチャーウイスキーや弊社ガイアフローなどの中小企業も含め、ほとんどの国内メーカーが加盟しています。

ですので、組合で決められたことは大きな実効性を持ちます。

また、税制に関する業界内の要望を取り上げ、国に要望を出すなど、実質的な影響力を持っています。

日本洋酒酒造組合の自主基準です

お酒に関する各種の規定は、基本的に酒税法や食品衛生法などの法令で定められていますが、それ以外に、組合に加盟しているメーカーが守るべき「自主基準」を独自に策定して、お酒の適切な表示や誤認防止などを図っています。

今回発表された、ジャパニーズウイスキーの定義も、日本洋酒酒造組合の自主基準のひとつになります。

日本洋酒酒造組合が独自に定めた自主基準
http://www.yoshu.or.jp/statistics_legal/legal/independence.html

例えば、缶チューハイなどで見かける「これはお酒です」という大きなマークは、日本洋酒酒造組合の自主基準に基づいて各メーカーが表示しています。

ジャパニーズウイスキーと海外産ウイスキー

弊社は静岡蒸溜所を稼働させ、自社でシングルモルトウイスキーを製造販売しています。それには、莫大な設備投資と数年間の熟成という多大なコストがかかります。ジャパニーズウイスキーの製造は、キャッシュフロー重視の現代の経営の世界においては、非常に効率の悪いビジネスです。

一方、熟成済みの海外産原酒を使ったブレンデッドウイスキーは、仕入れてブレンドしたら直ぐ販売できるため、会計的には優れたビジネスと言えます。

シングルモルトを製造しているメーカーの多くは、売上を確保し、利益を賄うため、ブレンデッドウイスキーも製造販売しています。それらのメーカーでは製品の品質向上のため、自社の熟成庫にて、輸入した熟成済みの原酒を改めて樽に詰め、追加熟成を行っている場合もあります。

他方、自社でウイスキー原酒の製造を行わずに、輸入原酒をブレンドしただけで販売したり、さらにスピリッツをブレンドして、ブレンデッドウイスキーを販売している会社も多々あります。酒税法上は、これらもウイスキーの製造にあたります。

元々、日本でのウイスキー製造は、本場のスコッチやアイリッシュなどのウイスキーを真似て製造されたイミテーションウイスキー(ウイスキー風の模造酒)から始まっています。現在の酒税法で、ウイスキーの原材料として9割はスピリッツをブレンドしても構わないと規定されているのは、その歴史が発端となっています。

市場に吹き荒れる、日本風ウイスキーの嵐

21世紀になって、海外の市場がジャパニーズウイスキーの魅力に気づきました。日本国内でもマッサンの放送に端を発したブームが起き、需要が供給を遙かに上回るようになりました。しかし、ウイスキーは仕込んでから何年も熟成が必要なため、すぐには需給のギャップを解消できません。

その需要過多の状況で、流通にのったのが日本風ウイスキーです。日本的な商品名と和風なラベル、パッケージで、消費者が日本国内で製造されたウイスキーと誤認してしまうような商品です。

問題は、現在の日本の法令では、日本国内で製造されたウイスキーか、海外産原酒を使ったウイスキーかを明確に区別して表示する規定が存在していないことにありました。ワインの世界では規定されている原産地呼称の概念も存在しません。このような状況の下、ジャパニーズウイスキーと、そうでないウイスキーが混然一体となって販売されているのが実情です。

海外でも、ジャパニーズウイスキーの規定が存在しないことによって引き起こされる混乱が問題になっています。

海外で売り場を覗くと、日本国内では見たこともない商品が販売されています。日本から輸出はされていても、原酒が日本で製造されているかどうかを見分ける術がありません。もしくは麹由来の焼酎を樽熟成するなど、日本の酒税法上もウイスキーと呼べない商品が、ジャパニーズウイスキーとして販売されていたりもします。

あまりに混乱しているため、どれが日本国内で製造されたウイスキーか判別するため、有志によって下記のようなチャートが制作され、公開されているほどです。(本チャートの内容が正確かどうかは分かりません。各メーカーは自主基準の施工前に、各商品の原酒構成を変更しています)

状況を憂慮した国内ウイスキー業界が、自ら基準を決めた

ジャパニーズウイスキーへの注目が世界的に高まる中、日本で造られたウイスキーと消費者に誤認させて販売することが目的と思われる商品が市場に多く流通する状況を憂慮した、日本洋酒酒造組合が自主基準を策定した次第です。

ちょっと長いのですが、ジャパニーズウイスキーの定義の序文を引用しますので、まずはご一読ください。特に読んでいただきたい部分を、赤字にしてあります。

〜引用はじめ〜

ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準施行にあたって

日本で本格的なウイスキーづくりが始まって、100 年になろうとしている現在、日本のウイスキーづくりは、世界中の多くの方々に支持されています。

ただここ数年、外国産の原酒のみを使用したウイスキーをジャパニーズウイスキーとして、輸出販売する、また日本の酒税法上ウイスキーとは言えないブランドが海外においてウイスキーとして販売されるなど、お客様に一部混乱を招いているとも認識しています。

日本のウイスキー造りの歴史を紐解いてみますと、異国の地にウイスキーづくりを学んだ先人達の努力は、日本の豊かな自然で育まれたウイスキー原酒づくりや、日本独自のブレンド技術を生み出しましたが、日本のウイスキーは元々スコッチウイスキーを手本に製造が始まりました。スコッチでは多数ある蒸溜所間で原酒を交換することで多様なタイプの原酒を確保し、それらを自社原酒にブレンドすることで商品の開発や品質を維持していくこ とが一般的に行われています。一方、日本ではこのように原酒交換を行う習慣はないため、各製造者がしのぎを削りながら切磋琢磨して自社で多様な原酒を造り分ける技術を確立すると共に、海外に蒸溜所を所有する、あるいは海外からの輸入原酒を活用することで、繊細な味覚と巧みなブレンド技術により美味しい日本のウイスキーを提供してきました。こうした発展がまさに日本におけるウイスキーづくりの歴史、伝統、文化であることは言うまでもありませんし、その努力が多くの日本人の飲酒文化を豊かにし、世界の人々に支持されていることは、我々、日本洋酒酒造組合に集う製造者にとって誇りであり、多くの先人達の努力の賜物と感謝して止みません。

そこで日本洋酒酒造組合としては、これまで培ってきたウイスキーづくりの評価を毀損す ることなく、ジャパニーズウイスキーの定義を明確化し、国内外に明らかにすることによっ てお客様の混乱を避けるとともに、日本で独自に進化してきたウイスキーの価値を引き続きお客様に訴求することで、さらなる業界発展に繋げたいと考え、議論を進めてきました。

以下にその自主基準を示します。

2021 年 2 月 日本洋酒酒造組合理事長

〜引用おわり〜

国内の実績あるメーカーが基準を策定

今回、発表されたジャパニーズウイスキーの定義は、日本洋酒酒造組合に所属する、日本ウイスキー業界の立役者と言えるメーカーが集まったワーキンググループで検討されました。そのメンバーは、サントリー、ニッカ、キリン、本坊酒造、ベンチャーウイスキーと聞いています。

ワーキンググループは2016年に発足し、2021年初頭まで議論に議論を重ねたそうです。その議論の過程は非公開となっており、組合員であっても知ることはできません。ですから弊社も含め、ワーキンググループに参加していないメーカーは最終的な定義に至った経緯や理由は分かりません。

私も議論していることは知っていましたが、ワーキンググループのメンバー各社を信じて、結論が出るのを今か今かと待っていました。

そして今月、ようやく理事会での承認を経て、ジャパニーズウイスキーの定義の発表に至った次第です。

メーカーが自らの身を削ってでも「ジャパニーズウイスキー」を守る決意をした

今回発表されたジャパニーズウイスキーの定義の内容は、非常に厳格な内容となっています。

一貫して日本国内で製造していないと「ジャパニーズウイスキー」と名乗ることができません。海外からの輸入原酒やスピリッツ、麹由来の焼酎、泡盛などを少しでもブレンドしたら認められません。少なくとも3年間の熟成をしていないと認められません。

シングルモルト・ウイスキーのメーカーとしてのガイアフローからしても、世界に胸を張って宣言できる内容と言えます。

しかしながら、それは一方で既存の商品に大きな影響を与える内容でもあります。

国内各社の主力商品であるブレンデッドウイスキーや、ブレンデッドモルト(ヴァッテッド)ウイスキーの多くには、海外から輸入した原酒がブレンドされており、それらは「ジャパニーズウイスキー」と名乗れないからです。

さらに、海外の原酒などを使いながら、日本的な商品名や表示をしようとした場合、海外産原酒を使用していることを明示する必要があります。既存の枠組みで企画され、販売されてきた商品にとっては、ブランドイメージに大きなマイナスの影響が出ることでしょう。

日本国内で製造されているウイスキーは、国内市場全体からすれば極一部であり、市場の多くは海外産原酒を使用したウイスキーであることを考えれば、それらを製造販売しているメーカーが、自ら厳しい基準を策定したことは驚きに値します。

まもなく日本でのウイスキー製造の歴史が100周年を迎えようとする中、各社がわが身を削る内容の自主基準を定めたことは、山あり谷ありの長い道のりを創ってきたメーカーの「ジャパニーズウイスキー」の誇りを守ろうという決意の現れだと感じます。

ここから「ジャパニーズウイスキー」の新たな100年が、造り手自らの意志で始まったと言えるでしょう。


中編・後編は、基準の内容について細かく解説します

自主基準の内容に関する解説を、次の記事で書いています。

【メディア】日経トレンディ3月号に掲載されました!

旬のモノやサービスを消費者の視点で徹底検証する「日経トレンディ」。今回の3月号では、「おうち酒ブレイク予測!」というテーマ。さまざまなお酒や、日本各地の美味しいおつまみが紹介されています。

その中には、もちろんウイスキーの特集も。大手メーカーから今話題のクラフト蒸溜所まで、ボトルとともに紹介されているんです。
ガイアフロー静岡蒸溜所も掲載されています!それは、「ルーキー本格始動」と題されたクラフトウイスキーのコーナー。ボトルは、みなさんご存知、昨年12月に発売されたプロローグKです。

おうち時間の中で、ウイスキーを含めたおいしいお酒と出会ってみましょう!

【コラム】ポットスチルの日本語は、蒸留機?蒸留器?

【コラム】ポットスチルの日本語は、蒸留機?蒸留器?

ガイアフローは「蒸留機」

こんにちは。代表の中村大航です。
コラムでは、ウイスキーに関連したテーマについて、私が書いていきます。

今回はポットスチルの日本語について。
ときどき、お客様から下記のようなご質問をいただきます。

質問「ガイアフローさんでは、ポットスチルのことを蒸留機と表記しているけれど、蒸留器が正しいのではないですか?」

それに対して弊社では、以下の様にお答えしています。

回答「酒税法では単式、連続式ともに『蒸留機』と表記されています。ガイアフローでは酒税法に準じた表記をしています。」

酒税法では「蒸留機」

実際、酒税法を読むと、「蒸留機」という表記がされています。

以下、酒税法からの抜粋です。

〜引用はじめ〜

九 連続式蒸留焼酎 アルコール含有物を連続式蒸留機(連続して供給されるアルコール含有物を蒸留しつつ、フーゼル油、アルデヒドその他の不純物を取り除くことができる蒸留機をいう。次号イ及び第四十三条第六項において同じ。)により蒸留した酒類(これに水を加えたもの及び政令で定めるところにより砂糖(政令で定めるものに限る。)その他の政令で定める物品を加えたもの(エキス分が二度未満のものに限る。)を含み、次に掲げるものを除く。)で、アルコール分が三十六度未満のものをいう。

十 単式蒸留焼酎 次に掲げる酒類(これらに水を加えたものを含み、前号イからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)でアルコール分が四十五度以下のものをいう。
イ 穀類又は芋類、これらのこうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を連続式蒸留機以外の蒸留機(以下この号及び第四十三条第七項において「単式蒸留機」という。)により蒸留したもの

〜引用おわり〜

以上のように「蒸留機」という表記は、ウイスキーの項目には無く、焼酎の分類の中で登場しています。ですので、ウイスキーのポットスチルの日本語が「蒸留機」であると、直接的には書かれていません。

ただ、上記の様に酒税法では、もろみを連続的に供給して、連続的に蒸留できる蒸留機を「連続式」と定義し、それ以外の連続的に蒸留できない蒸留機を「単式」と定義しています。

ウイスキーのポットスチルは、酒税法の「単式蒸留機」に分類されています。

本来の漢字は「蒸溜機」

本来の漢字は「蒸溜機」でしたが、第二次大戦後、「溜」を、常用漢字の「留」で代用して「蒸留機」と表記しています。

竹鶴ノートでも「蒸溜機」

歴史を紐解くと、ジャパニーズウイスキーの貴重な文献である、1920年に竹鶴政孝氏が書いた「実習報告(通称:竹鶴ノート)」でも「蒸溜機」と記されています。(「溜」は更に古い字「餾」が使われています)

手元に竹鶴ノートをお持ちの方は、ポットスチルの図が描かれたページを開いてみてください。

ニッカウヰスキー 竹鶴ノート
https://www.nikka.com/80th/story/note/

メーカーの表記は各社各様

他のウイスキーメーカーのホームページを確認してみると、表記は各社毎に違いがありました。

サントリー「蒸溜釜」または「単式蒸溜器」
ニッカ「ポットスチル」
キリン「蒸留器」または「ポットスチル」

各社がいつから上記の表記を採用しているのかは分かりませんが、それぞれの歴史の中で理由があって使われていると思われます。

なお、連続式蒸溜(留)機については、全社同じ表記でした。

初留と再留の呼び方は?

一般的にウイスキーは2回の蒸溜を行い、1回目を初留、2回目を再留と言います。

それぞれの蒸留機の呼び方は、英語で初留の蒸留機を「Wash still」、再留の蒸留機を「Spirit still」と呼びます。

日本語ではそれぞれ「初留釜」と「再留釜」と呼びます。もしくは「初留蒸留機」と「再留蒸留機」です。

以上、ポットスチルの日本語に関するお話でした。