【メディア】北海道新聞2016年2月21日

北海道新聞 2016年2月21日

広がる 地ウイスキー

全国に蒸留所 地域も潤す

ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝がモデルで、同社余市蒸留所(後志管内余市町)などが舞台のNHK連続テレビ小説「マッサン」の放送から国産ウイスキーブームが続く中、全国で蒸留所を開設する動きが相次ぐ。今年は釧路管内厚岸町などで誕生し、東京五輪が開かれる2020年までの初出荷を目指す。小規模な設備で個性豊かな味や香りで勝負するクラフトウイスキー(地ウイスキー)と呼ばれ、地域活性化の起爆剤に期待されている。

「ウイスキーに情熱を燃やしたマッサンの志を継ぎ、余市蒸留所のように全国から人が集まる観光拠点を静岡につくって盛り上げたい」。静岡市の洋酒輸入業「ガイアフロー」の中村大航(たいこう)社長(47)は力を込める。

03年に訪れた余市蒸留所でウイスキーの魅力にはまり、政孝が留学した英国スコットランドの蒸留所で学んだ。約6億円を投資し、水質に恵まれた静岡市の安倍川上流部に、地場商品の売店や遊歩道を併設した蒸留所を建設している。銘柄は大麦が原料の3年熟成モルトウイスキー「静岡」。中村社長は「女性や若者が飲みやすいフルーティーな味にしたい」と言う。9月に操業を始め、19年末の初出荷を見込む。

厚岸は10月操業

道東初の蒸留所を厚岸につくり、10月操業を目指す食品原材料輸入業「堅展(けんてん)実業」(東京)の樋田(といた)恵一社長(49)。国産ウイスキーの輸出を手掛けてきたが、ウイスキーブームで原酒が手に入らず、数億円を投じて自社生産に乗り出す。

厚岸は本場スコットランド・アイラ島に気候と風土が似て、同島で生産されるスコ
ッチ・ウイスキーの風味に欠かせないピート(泥炭)が採れる。熟成技術に精通した乳業大手の元社員を採用。原料にスコットランド産大麦を使うが、将来は道東産の大麦やトウモロコシも活用したい考えだ。樋田社長は「ウイスキーは大きい会社ではなくても、いいものが造れる。世界に厚岸ブランドを発信したい」と意気込む。

酒造会社もウイスキー事業に意欲的だ。地ビールで有名な木内酒造(茨城県那珂市)、1765年創業の笹の川酒造(福島県郡山市)は今年からウイスキーの試験蒸留を始め、蒸留所開設を視野に入れる。長野県に蒸留所を持つ本坊酒造(鹿児島市)も原酒不足解消と輸出拡大を狙い、11月に鹿児島県南さつま市で日本最南端の蒸留所を設ける。

新興勢力も続々

帝国データバンクによると、ウイスキーの国内市場はサントリーとニッカの大手2社で9割を占める。ただ、世界的のウイスキーブームを背景に日本ブランドの人気が高まり、地域色を個性にした新興勢力はこれから増えるとみている。

ニッカの中川圭一社長は会社経営で苦労した政孝を例に「熟成に一定の年数がかかるため、ある程度の資金力がないと続かない」と指摘する。サントリーは「魅力的な地ウイスキーが増えれば、市場活性化につながる。品質の高い商品を安定供給してほしい」とエールを送る。

ベンチャーウイスキー 肥土社長
世界に通用する商品に

地ウイスキー人気の火付け役で、看板ブランド「イチローズ・モルト」が海外でも評価されているベンチャーウイスキー(埼玉県秩父市)の肥土(あくと)伊知郎社長(50)に地ウイスキーの魅力を聞いた。

──国産ウイスキーブームが続いています。
「バブル崩壊後、焼酎など安い酒の人気が高まり、ウイスキー離れが加速しましたが、それでは味覚に物足りなくなった人がハイボールブームなどで戻り、ウイスキーの魅力を再認識する動きが幅広い世代に広がっています。ワインブームが曲折を繰り返しながら右肩上がりに続いているように、ウイスキーブームも一過性ではなく、息の長い新時代になると期待しています」

──地ウイスキーの台頭をどう考えますか。
「地域性や個性で勝負する地ウイスキーが脚光を浴びることで、消費者の選択肢が広がります。全国各地の地ビールが市民権を得たように、地ウイスキーの主体も酒造りを知る酒造会社だけでなく、厚岸や静岡のように一から醸造、蒸留、熟成を手がける企業が現れました。新たなファンを開拓し、業界全体の持続的な成長につながります」

──新規参入組への協力に積極的ですね。
「プレイヤーが増えることで競争原理が働き、品質や技術の底上げ、ブランド力の向上につながればいいですね。いつか世界に通用する地ウイスキーブランドが生まれてほしい。厚岸など全国各地の蒸留所を訪れる観光客が増え、地域が元気になってほしい」

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