【メディア】読売新聞2020年4月2日(木)「静岡らしさ」ウイスキーで

読売新聞
2020年4月2日(木曜日)
「静岡らしさ」ウイスキーで

静岡市中心部から車を北に走らせて約30分。霧が立ちこめる山あいの「オクシズ」に、市内で初めて設立されたウイスキーの蒸留所が静かに時を刻んでいた。
 ウイスキーの国内市場は近年、ハイボール人気に伴い急拡大した。こうした中、最初に樽詰めした原酒の熟成期間が世界基準の3年に達し、今秋にも静岡市産ウイスキーを販売する。他とは異なる静岡らしさを出すため、二つのこだわりを徹底した。

 ウイスキーはまず、麦芽と水を混ぜて酵母で発酵させ、アルコールが発生した液体「もろみ」を作る。中村大航社長(51)は、立ち並ぶ直径2.5メートルほどの木製のおけを前に、「地元産の杉も使ってる」とこだわりを強調した。発酵させるおけはステンレス製が多い。木製だとこまめな清掃や、ひび割れを防ぐメンテナンスが必要だからだ。一方で、乳酸菌が桶にすみ着きやすいといい、「香りや味わいが深くなるんです」と胸を張った。
 出来上がったもろみをウイスキーの原酒にする。アルコールは水よりも沸点が低い。沸点の差を利用し、もろみの温度を上げてアルコール濃度の高い液体をつくる工程だ。この蒸留を、ウイスキーでは通常、2、3回繰り返す。
 ここに二つ目のポイントがある。蒸留の燃料として地元間伐材の薪も使っていることだ。安定して蒸留するには、蒸留器の温度を一定に保つ必要がある。薪は火加減の管理が難しく、約8時間にわたって目を離せないほか、酵母が高温で焦げ付くリスクもある。それでも、地元産を徹底することにした。中村社長は、「蒸留器は釜のメーカーに特注してつくってもらいました。世界でうちだけじゃないですか」と笑った。
 おいしさには水も重要となる。使っているのは安倍川の伏流水。茶の名産地・静岡を支える名水だ。

 中村社長のウイスキー造りの原点は、12年に訪れたスコットランド旅行だった。地元の小規模ウイスキー蒸留所を見学し、「この規模ならできるかもしれない」と思い立った。経営していた精密機械メーカーを親族に引き継ぎ、覚悟を持って工場の設立に踏み切った。スコットランド留学や国内蒸留所での研修を重ねてウイスキー製造を学んできた。
 中村社長は、ウイスキーを「コピーできない商品」と表現する。その土地ならではの自然環境や独自の製法が商品の特徴を生み出す。静岡らしさを国内外にアピールするには絶好の酒とみており、「オンリーワンの特徴を与えるからこそ静岡産の価値を生み出すことができるんです」と語る。飲んだ人がオクシズの自然に思いをはせ、訪れてみたいと思わせるようなウイスキーを目指すという。
 今年1月に最初の原酒は3年の熟成を経た。琥珀に色づいたウイスキーを試飲した中村社長は「ショウガやハチミツを感じさせるようなフルーティーな味わい」と表現する。
 原料となる大麦は現在、県内でほとんど生産されていない。焼津市で地元農協などに協力を求めるなど、「オール静岡ウイスキー」を見据えた準備を進めている。中村社長は「静岡の良さを伝えつつ、気軽に飲んでもらえるウイスキーをつくっていきたい」と意気込む。

【メディア】読売新聞朝刊2019年6月25日 過熱 国産ウイスキー[下]

2019年6月25日
読売新聞朝刊 過熱 国産ウイスキー[下]

 異業種からも進出する。2016年に製造免許を取得した「ガイアフロー」(静岡市)を率いる中村大航(50)は、もともと精密部品メーカーの3代目だ。部品に代わる新規事業を検討中、スコットランドの蒸留所で昔ながらの単純な設備に衝撃を受け、「設備ではなく発想だ」と事業化を決意した。
 「五右衛門風呂」にヒントを得て、蒸留器の加熱にまきを使うことを思いついた。温度が安定するガスと異なり、微妙な温度のムラが、個性的な味わいにつながると考えた。