【メディア】ウイスキー専門誌 Whisky World 2015 DECEMBER [日本にクラフトディスティラリー時代がやって来た]

ウイスキー専門誌 Whisky World 2015 DECEMBER 特集記事に掲載されました。

今号の特集は「日本にクラフトディスティラリー時代がやって来た」
その冒頭で、見開き4ページの記事で取り上げていただいています。

取材当日は、世界中の蒸留所を訪問しているウイスキー評論家の土屋守氏が、建設の始まった静岡蒸溜所を訪れました。周辺の様子も含めて、現地を子細に見て回り、「茶畑と蒸留所が一緒に見えるのは、ここだけだろう」と驚かれていました。

記事では、中村がウイスキー造りを志したきっかけや、インポーターを始めた経緯、静岡蒸溜所がどんなものになるのか、などをご紹介しています。

Whisky World 2015 DECEMBER は、11月29日のウイスキーフェスティバル東京を皮切りに発売されます。どうぞお楽しみに。

ウイスキーワールド 公式サイト
http://yumedia-net.co.jp/whisky-world

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一人のウイスキーファンが静岡の地に描く理想郷。
静岡蒸溜所(ガイアフロー)

ウイスキー界との関わりなく設立されたガイアフロー

スペイサイド・ローゼスを思わせる、深い緑と清らかな川を望む山間の道。 その先には2000平米の土地が開ける。そこに立つひとりの男性は、30代半ばで祖父が創業した会社を継ぎ、4年前までは、精密部品製造会社の社長として忙しい日々を送っていた。

その人、中村大航さんは今や日本のウイスキー界で最も注目を集める人物のひとりだろう。

昨年、蒸留所建設のプロジェクトを本格的に始動させると、今年2月には2012年に60年の歴史に幕を閉じた軽井沢蒸留所の製造設備一式を競売で落札。 そして来年春、生まれ育った静岡の地に、蒸留所を誕生させる。

ウイスキー好きの父の影響もあり、20代の頃から、バーに通うようになったという中村さん。やがてシングルモルトに魅せられ、国内の蒸留所を訪れたりもした。とはいえ、いウイスキーファン以上のものではなかった。

「大学卒業後は企業勤めをしていて、34歳の時に家業を継ぎました。 それからはいつか会社としての新たな収益、新規事業を立ち上げないといけないと思うようになりました。でもウイスキーに関わることは、考えてもいませんでした」。

そうしたなか、2012年34歳のときに作ったのがガイアフローという会社だ。社名は地球(ガイア)と流動(フロー)を表し、主な事業は再生可能エネルギー事業だったという。

アイラ・キルホーマンでウイスキー造りを決意

国の法整備の遅れもあって、再生可能エネルギー事業はなかなか前に進まなかった。一方、プライベートでは地元・静岡の酒蔵やクラフトビールの造り手など、お酒に関わる人々との親交を深めていった。

そんな時、中村さんはアイラ島を訪れる。2012年の初夏のことだ。

「知人を訪ねて、パリに行く機会があったんです。それでせっかくなのでアイラを訪れてみようと。 アードベッグ、ボウモア ラガヴリン、ラフロイグ・・・。 ジュラにも立ち寄ったので合計9つの蒸留所を巡りました」。

それぞれの蒸留所で、歴史の深さ、受け継がれてきた伝統を肌で感じたという。ただ、最後に訪れたキルホーマンだけは違った感情を抱いた。

「世界に名を馳せるウイスキーが、こんなに小さな規模で、しかも決して最新のものではない設備で造られている。 その光景を見しばし呆然としました。同時に自分にもできるかもしれないという思いが芽生えたんです」。この時から、中村さんの人生はウイスキーの世界へと向かっていく。

人との出会いをきっかけにインポーターとなる

キルホーマンで、蒸留所建設を志した中村さんは、帰国後すぐにその思いを行動に移した。 「何からどうやったらいいのか。 アドバイスをいただけるのは、肥土さん(ベンチャーウイスキ!秩父蒸溜所 肥土伊知郎氏)しかいないのではないか。それで大阪の「ウイスキフェスティバル』の会場でご挨拶させていただきました」。

その後7月に秩父を訪れ、肥土さんから様々な話を聞いた。 「まずは業界に入っていくことから始めてはどうか」というアドバイスを受け、酒類免許を取得。インポーターとしてウイスキーの世界に飛び込んだ。

「インポーターと言っても、やっぱり何をどうやったらいいのかわからない(笑)。 ところが、9月に東京の新橋で偶然、ロビン・トゥチェック氏(ボトラーズ会社「ブラックアダー」 代表)を見かけたんです。 その時はうまく声をかけられなかったんですが、なんと同じホテルに泊まっていたんです。それでフロントで便箋をもらって手紙を書きました。そうしたら本人が戻ってきたんです。 もう偶然が重なって重なって・・・」。

ホテルのロビーでトゥチェック氏にウイスキー製造について話を聞いた。それがきっかけになり2ヵ月後には、ブラックアダーの日本での輸入代理店にならないかとの提案を受けた。中村さんは、「まだ経験がないので」と辞退したが、その後も声をかけてもらい、2013年4月から正式にブラックアダーのインポーターとなる。それからはトゥチェック氏の紹介もあり、インドのアムルットなどいくつかのウイスキーの輸入代理店となった。 社名を変える時間もないまま、ガイアフローはウイスキー業界でも知られるようになっていった。

故郷・静岡に描く、ウイスキードリーム

2013年夏。インポーターとしての体制が整ったことから、蒸留所建設に向けても具体的に動き始める。 まず、どこに建てるか。日本各地を見て回ったものの、なぜかどこもしっくりこない。ようやく「ここだ」という場所に出合ったのは2014年の6月のこと。

「静岡でクラフトビールを造っているAOIビールの満藤直樹さんとのご縁で、この土地と出合いました。 静岡市が所有する遊休地で、市や地域の方々からのバックアップもありました」。

静岡市葵区玉川地区の蒸留所建設予定地は、「安倍川餅」で知られる安倍川の支流沿いに位置し、周囲には山々が連なる自然豊かな環境。 静岡らしく茶畑も広がる。標高はおよそ200メートルで、年間を通して寒暖差が少なく、気候は安定しているという。

現在は地鎮祭を終え、蒸留所の基礎部分の工事が行われている。中村さん本人も「びっくりです」というほど、ジェットコースターのようなスピートでここまできたわけだが、この先も歩みは止まらない。

「熟成庫や蒸留棟が竣工するのが来年の春。(競売で落札した) 軽井沢蒸留所の設備は老朽化が進んでいて、使えるのはモルトミルとポットスチル1基だけなんです。 糖化槽と発酵槽は新調する予定です。 スチルについては、1800リットルのホルスタイン社のハイブリッドスチルを導入します。 まずこの設備製造をスタートしますが、すでにスコットランドのフォーサイス社に初留5000リットル、再留3500リットルのバルジ型ポットスチルをオーダーしています。 これが届くのが来年秋の予定。そうなると今度は、ハイブリッドスチルを使ってスピリッツも造るかもしれません。例えば、静岡のお茶やみかんを使ったジンだったり」。

それだけでも大きな夢だが、中村さんはさらにその先にも思いを馳せる。

「将来的にはビジターセンターをつくって、地元の食材や地域の人たちとコラボレーションをしていきたいと思っています。 蕎麦が味わえたり、地酒が飲めたり、釣りができたり・・・」。 その夢が今、着々と現実のものになろうとしている。

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