2024年2月23日 SABAセミナーレポート#1 静岡蒸溜所

では、静岡蒸溜所のお話をさせていただきます。アショクがノリノリで話してくれたので(笑)こちらの時間がぐっと短くなってしまいましたけど(注・当日はアムルットセミナーを先に行いました)、テンポよくやっていきましょう。

今日、皆様のお手元には、それぞれ小さいボトルでテイスティングサンプルを分けしております。グラスもありますので、持ち帰っても良し、この場で飲むでも良しということを楽しんでいただければと思います。私はよくテイスティングするのを忘れるので(笑)、こういうフリーな感じだと気が楽ですね。

ガイアフローと静岡蒸溜所

静岡蒸留所は、ガイアフローが2016年に設立した蒸溜所で、私自身は静岡蒸溜所、ガイアフローの代表をするとともに、製造の責任者でもあります。ですので、どんなものを造るか全部決定し、マスターブレンダーです。商品の企画から味わいも含めて全部私の方で最終的に決めています。

まあ、何でもやるんですが、実はガイアフローは販売の会社と製品の会社と2つに分かれております。ウイスキーを造るだけでなく、ウイスキーを輸入して全国で販売をしている。しかも自社商品の輸出も行っています。実際30人ちょっとぐらいの会社です。

そもそも弊社は海外のウイスキーの輸入販売と、輸入卸からスタートしています。メインはスコッチウイスキーですね。特に一番は、さっき挨拶してくれましたロビンの、ブラックアダー。そして、今日はこの後オンラインで登場してくれるアスタモリス。そしてオフィシャルではアムルットやスペイ、ハイランドクイーンなどを扱っております。

さて、その静岡蒸溜所は、東京と名古屋の丁度中間のあたり、静岡県の真ん中ほどにあります。静岡県内には今5つ蒸留所があります。弊社この真ん中の静岡市にあり、その奥に井川蒸溜所が2020年から稼働しています。県内では最も歴史のある、キリンの富士御殿場蒸溜所。そして富士山の近くにはですね、御殿場高原ビールさんの富士かぐや蒸溜所もあります。さらには今、三島の方に古民家を改造したウォータードラゴンというグレーンウイスキーの蒸溜所があります。そんな個性豊かな蒸留所が揃っています。

静岡市は徳川家康がつくった町なのですが、その静岡駅は東京駅から新幹線で1時間、名古屋からも1時間弱です。ここからバスで1時間。この品川からなら最短2時間で行くことができるので、意外と近いですね。

実際2016年6月に免許を取り、この時点でウイスキーを主に造っている蒸留所としては国内で10番目でした。今ご存知の通り全国で100か所以上できているので、ここから90箇所増えたっていうことなんですね。機械メーカーさんからは、ウチがやるって言ったおかげでたくさん注文が入りましたって感謝はされております。

「クラフトウイスキー」という言葉

この時、プレスリリースで「クラフトウイスキー蒸留所建設」と発表したのですが、実はこれが「クラフトウイスキー」という言葉が日本で初めて使われたんです。それまで「クラフトウイスキー」という言葉はありませんでした。

蒸留所をつくりたいと思って最初にベンチャーウイスキーの肥土伊知郎さんにご相談したのですが、その時には「クラフトディスティラリー」という言葉しかありませんでした。そこで、もう少しわかりやすく、間違いづらい言葉はないものかと考えていた時に、すでに一般的になっていた「クラフトビール」という言葉から「クラフトウイスキー」を思いついたというわけです。それからあっという間に広まって、今では普通に使われていますね。

では、その「クラフトウイスキー」の定義はという話になると、また長くなりますので今日はいたしませんが、要は土地の地域性、テロワールをウイスキーに込めていこうという考えです。地域の特徴を具現化することを考えました。

これも弊社が日本で初めて提唱したコンセプトですが、100%地元の大麦でウイスキーを造るということをしています。こんなことを言っている人はそれまでいませんでした。100年前山崎でウイスキー造りを始めた頃には国産大麦を使っていたので、過去にはありましたが、今そういうことを実践しているところはなかったのです。海外の大麦に比べて2、3倍は高くなってしまう事もあり、経済的合理性がないんです。

ただ私は日本酒も好きなので、お米の品種によって味わいが違うということを体験していく中で、ウイスキーもそういうことがあるんじゃないかと実験してみたくなったのです。
そこで、地元の大麦100%のウイスキーを造ることにも挑戦していきますと言ったらそれもまた広がって(笑)。今はクラフトだけでなく大手さんも挑戦されるようになりました。

静岡大麦でのウイスキーづくり

昨年、初めて100%静岡大麦をリリースしました。これは2015年、蒸留所が建設途中から、蒸留所近隣の農家さんが大麦栽培に取り組んでくださったんです。昔は大麦栽培をしていたらしいのですが今では全てお茶畑になっていて、麦の種を買うところから栽培のノウハウまで全てが手探りでした。しかし発芽が難しく、最終的には失敗に近い結果になってしまいましたが、何とかひと仕込み分だけは収穫できました。

焼津の大麦畑

今では酒米をつくっている農家さんの裏作として栽培をしていますが、勉強会を重ね、コスト的な問題もクリアしました。昨年の実績では、全生産量の約2割を県内産大麦で賄えるようになっています。

日本産以外の麦では、スコットランド産のピーテッド麦芽、他にはオーストラリアなどの輸入麦芽も使用しています。

さらにこれは大麦だけではなく、酵母も静岡産です。工業技術支援センターという県の組織研究機関があって、そこが日本酒の酵母の開発をしていました。それを県内の酒蔵が使い始めて、一気に静岡の地酒が賞を受賞するようになり、吟醸王国と呼ばれるようになりました。ここで大麦用の酵母をしていただきました。クラフトビールにも使われています。静岡というのはお酒に関する開発、そして生産量も非常に多い県で、うちだけの努力ではなく、多くの方々のご協力によって成り立っているんです。

静岡のテロワールを活かすウイスキーづくり

時間もあまりないのですが、今日はテイスティングをしないので、他のお話をしましょう。静岡には非常に良い杉が多いのですが、これで発酵槽を造るということもしています。

杉の発酵槽

日本酒では杉を使って発酵槽、木桶を造って酒を醸すことを戦前に行っていました。戦後は一旦なくなったのですが今復活していますね。同じように地元の杉を使った発酵槽でウイスキーを造ったらどんな味になるのかを考え、日本酒や味噌などの木桶職人の方にお願いしました。
静岡の山を見て回ったのですが、まずはいい山を見つける。それからいい丸太を選び出して、蒸溜所から5分ほどの製材所で製材し、1年から2年乾燥させています。これは実はとても非常識なことで、普通日本酒の木桶は吉野杉を使うんです。トップクオリティの杉ですね。それに劣らない杉が静岡にあるのかというのが大問題だったのですが、実際よく管理された山があり、そこの杉が使えるということが分かりました。

他にオレゴンパイン製の発酵槽もあって、使い分けています。分析したものを見ると、微妙に数値が違うんです。まだ結論を出すには早いのですが。木製の発酵槽には微生物が住み着いて、発酵に向いた環境が徐々に作られていきます。それがとても大事なのです。時間が経てば経つほどいい状態になっていくと考えています。

ワンアンドオンリーな蒸留と熟成

次は蒸留です。これもまた弊社では特別なことをやっています。

静岡蒸溜所の3基の蒸留機 左から薪直火初留機W、再留機S、蒸気式初留機K

通常は初留と再留を行う2基がペアであるのですが、うちには3基あります。最初は2基で進める予定だったのですが、偶然手に入った軽井沢蒸留所の蒸気式蒸留機が稼働しています。1955年に造られたもので、これをオーバーホールして移設しています。これが蒸留機Kで、もうひとつ蒸留機Wがあります。この胴体の下に窯があって、その中に薪をくべて直火で蒸留しています。地元の山から間伐材として出た木を数ヶ月乾燥させて燃料として燃やしています。このような手間暇のかかることをやっているのは多分うちだけで、現在は海外も蒸留所が増えたので調べきれないのですが、今後うちを参考にしてスコットランドで薪直火蒸留をするところができるそうです。800度の炎が燃え盛る中に15〜20分に一度くらい薪を投げ入れます。こうしてもろみを沸かして蒸留しているわけです。
こんな話を先日あったワールドウイスキーフォーラムで話したら静まり返ってしまいまして…本当にそんなことをやっているのかと。実際に来ていただければご覧いただけますので(笑)。

このように蒸留した原酒をそれぞれ熟成させます。初留機ごと、麦の産地ごとに分けて蒸留して、それぞれ分けて熟成させる。そして樽から払い出した原酒をブレンドするという形です。それで蒸留機Kだけの原酒でつくったものがポットスティルK、WのものがポットスティルW、両方をブレンドしたものがユナイテッドSとしてリリースされています。

このように色々なところに地元のものを使っているのですが、実は今樽も造っています。富士山にミズナラがあったということを木材の職人さんが教えてくれて「要りますか?」ということで。これも地元の製材所で製材して、自然乾燥を2年ほど。今、樽として造っているところです。もうそろそろできることなんですが、できたんでしょうか…非常に心配しています。ミズナラは樽にするのが難しいので。そしてサントリーさんがおっしゃるのは、ミズナラは30年は熟成しないと、と。うーん、長生きすれば飲めるかもしれないですね。

テイスティングアイテムの紹介

では最後にお手元にあるサンプルを紹介していきましょう。

最初はポットスティルKです。これは日本産大麦だけで造っているウイスキーです。ウイスキーの規定には大麦の原産地の規定はないのですが、これは日本に限らずスコッチでもありません。どこの麦を使ってもジャパニーズウイスキーになるのですが、ただやっぱりこだわりたい、飲んでみたいと思ってやっています。味の方はみなさんにご判断いただきたいのですが、実際熟成4年の原酒がメインなのでまだ若いですね。静岡蒸溜所のウイスキーの発展の途中経過をみなさんにシェアしているという感じで考えています。長い目で見ていただければと。

静岡蒸溜所のウイスキーはとにかくエレガントなボディ、飲みごたえや満足感を大事にしたいと思っています。オフフレーバー、未熟な香りや硫黄、アルコールの刺激臭などを取り除いた丁寧なブレンドを心がけています。

実際ブレンドには本当に試行錯誤を繰り返すのですが、今も次の商品のプロトタイプがなかなか決まらなくて困っています(笑)。

そしてポットスティルW、これは薪直火のタイプですね。これ実はWWAという世界で最も権威があると言われるコンペティションで、日本のスモールバッチシングルモルトの年数表記なしという部門で最優秀賞を取りました。メダルは色々なところがとるのですが、カテゴリーウィナーは1本だけ、一応トップになりました。薪の直火、日本産大麦が評価を受けたということで、嬉しく思っています。

そして駆け足ですがユナイテッドS。これはKとWの原酒をブレンドしたものですが、割と出荷数量が増えていますので、店頭にも並ぶようになってきました。最近しっかりお店で販売していただけるようになったので、逆に「静岡売れてないんじゃないか」なんて言われるようになってしまったんですが、そうではなくて、たくさん出荷できるようになったということです。そのために500mlボトルに切り替えもしていますので。この切り替えについて、ひとつは本数を多く出すということ、そしてもうひとつ単価を下げる目的があります。いかに勝っていただきやすくするかと考えています。

このブレンドは飲みやすさ、ずっと飲み続けられる味を追求しています。強さとか個性にフォーカスせず、Sについてはこの飲みやすさをテーマにしてます。
飲み比べていただくと分かると思いますが、Kがライトでフルーティ、エステリーな味わい。Wはヘビーでスイート、ちょっとスモーキーさがある味わいを感じると思います。それぞれ好みが分かれるところですが、Sについてはその両方のバランスが取れた味わいになっています。これは静岡蒸溜所のスタンダードとして、年に2〜3回リリースしていきます。

そして最後にブレンデッドM。これも本数としてはかなり出していますので、ハイボールなどで飲んでいただいていると思います。コンセプトはMeetのM。外国産の原酒と静岡産の原酒をブレンドしています。気軽に静岡ウイスキーを楽しんでいただきたいと思っています。静岡の原酒については国産大麦の原酒も使っていて、コストはかかっていますが、カジュアルに飲んでもらえるようデザインもシンプルです。スポーツ観戦やアウトドアでも気軽に飲んでいただけたらなと思っています。

静岡蒸溜所オリジナルの取り組み

そしてそのほかの静岡蒸溜所独自のものとしては、プライベートカスク。樽ごと予約して購入できます。今年は50Lのオクタヴという樽で、日本産大麦を使用したものをご用意しています。これが3年熟成でお手元に届きます。

ただしこれだけはお話ししておきますが、小さい樽は熟成が早い分エンジェルズシェアも高いんです。年間で15%ほど、アムルットにも匹敵するレベルです。
しかししっかりと熟成します。オクタヴの3年熟成とバレルの3年、6年熟成を見比べてみると、大きなバレルの6年熟成より色は濃いですよね。3年でもしっかりとした味わいになります。


蒸溜所ツアーも週5日開催しています。詳細な解説のある、マニアックな内容なんですが、私が台本を書いています。1時間見学していただいて、試飲の時間もあります。静岡駅からバスで1時間ほどでお越しいただけます。これからのシーズンいい季節です。ぜひお越しください。

さらにウイスキースクールも開催しています。これは2日間で月に1度開催していまして、蒸溜所でウイスキーの造り方を体験していただくプログラムです。発酵槽の中に入って掃除をしたり、蒸留機Wに薪を投げ入れたりという作業もしていただきます。この卒業証書があれば、みなさんがウイスキー蒸留所をつくろうと思った時に、税務署に出すと有効ですのでぜひやってみてください(笑)。私も実際にやっています。

今年も期待大!イベント開催

最後に、イベントのご紹介です。静岡でイベントをやっています。静岡クラフトビール&ウイスキーフェア、2015年からで今年は8回目になります。
静岡はクラフトビールブルワリーもたくさんありますので、静岡の街中でビールやウイスキー、静岡のものを飲んだり食べたりしようというイベントです。入場は無料で、飲みたい分だけチケットを買っていただくシステムになっています。2日間ありますので、ぜひお越しください。

さて、本当に時間を過ぎて駆け足になってしまいましたが、本日はお越しいただいてありがとうございました!このあと試飲ブースもありますので、ぜひ気になるものをお試しください。

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Yomiuri メディア情報

【メディア】2024年7月23日 読売新聞 「静岡ひと 県産素材でウイスキー」

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WHISKY PORT 夏季配送休止期間のお知らせ

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【8月新商品】真夏のブラックアダー&アスタモリス、シェリーカスク3連発!

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【セミナー】 「静岡蒸溜所&アムルット プロ向けセミナー 」大阪、東京、静岡にて開催

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