【コラム】100%静岡大麦ウイスキー誕生まで8年の軌跡

創業者 中村大航による「創業者コラム 大航海日誌」

100%静岡大麦ウイスキー誕生まで8年の軌跡

2023年11月、静岡蒸溜所は100%静岡大麦のシングルモルトをリリースし、当初からのコンセプトである「静岡らしいウイスキー」を大きく進化させることができました。

この「100%静岡大麦ウイスキー」が誕生するまでには、2015年のスタートから8年以上かかりました。その軌跡を振り返ります。

日本には無かった、「100%地元産大麦ウイスキー」

蒸溜所の地元で育った大麦だけで、ウイスキーを仕込む。お手本としたのは、スコットランドの独立系小規模蒸溜所です。そこでは地域に根付いた蒸溜所の運営、ウイスキー造りが行われています。

2012年に訪問したアイラ島のキルホーマン蒸溜所では「100% ISLAY BARLEY」、2013年にウイスキースクールで訪問したキャンベルタウンのスプリングバンク蒸溜所では「Local Barley」といった、100%地元大麦で仕込んだウイスキーを製造しています。

一方、2012年当時のジャパニーズウイスキーの世界では「100%地元産大麦でウイスキーを仕込む」というテロワール(土地の味わい)を活かす発想は存在しませんでした。原材料の大麦麦芽は、ウイスキー用に開発されて価格が安い外国産がほぼ100%でした。価格が高い日本産の大麦麦芽は、ほんの僅かしか使われていませんでした。もちろん、大麦麦芽の産地が話題に上がることもありませんでした。

日本もスコットランドも、大麦の原産地に関する規定は無い

2021年に策定されたジャパニーズウイスキーの要件には、大麦の原産地に関する規定はありません。つまり、大麦は日本産でも外国産でもジャパニーズウイスキーとして認められるのです。

実は、スコッチウイスキーも大麦の原産地に関する規定はありません。実際、かなりの割合で外国産の大麦が使われているとのこと。これはウイスキーの製造量が増える中で、大麦の栽培が間に合わなくなったことに起因しているそうです。

含水率の少ない穀物は、果実のように収穫して直ぐに仕込む必要が無く、保存性が良いため、遠方への運搬にも耐えます。別の地域で栽培された大麦を使うことが容易なのです。

日本ウイスキーの原点は、100%国産大麦だった

歴史を遡ると、日本初の本格ウイスキーである1929年に発売されたサントリー白札の宣伝ポスターの中に「内地移植の大麦を原料に」という一文があり、当時は100%日本産の大麦麦芽だったことが分かります。しかし、戦後になると大麦麦芽は外国産に取って代わられた訳です。

日本酒の世界では、酒米の生産地や品種が違うと、風味が違うのは常識です。静岡県では誉富士という地元で開発した酒米での清酒づくりが県内の多くの酒蔵で行われていて、一般的な山田錦と異なる独特の味わいを醸し出していました。

外国産大麦と日本産大麦では、出来るウイスキーの味は違うのでは?さらに、同じ日本国内でも、産地が違えば、違う味になるハズでは?

「静岡で栽培した大麦で仕込んだウイスキーは、どんな味わいになるのか?」

その問いが、「100%地元産大麦ウイスキー」という新たなコンセプトのスタートになりました。

静岡県では、大麦がほとんど栽培されていなかった

しかしながら、静岡県では簡単には実現できませんでした。

当時、静岡県内では大麦の栽培がほとんど行われていなかったのです。1961年に5千トン超の収穫があったのをピークに、1980年代にはほぼゼロになり、以後、ゼロに近い状態が続いていました。

そんな逆境の中、静岡大麦の栽培の始まりは、静岡蒸溜所が建設着工された2015年のことでした。

地元有志の協力で、ウイスキー用の大麦栽培プロジェクトがスタート

2015年2月、静岡蒸溜所建設に関して、地元向けの説明会を開催しました。その席上、地元の方から「オレのところで大麦をつくったら、蒸溜所でウイスキーにしてくれるのか?」と問われました。

正直、とても驚きましたが「もちろんです!ぜひお願いします!」とお答えしました。地元での大麦栽培は難題だと考えていたので、製造が軌道に乗ってから数年後に実現できたら…と思っていたので、まだ私が口にも出していなかった時の出来事でした。

静岡蒸溜所は、2015年にプロジェクトが公にスタートしています。その第一報は、2015年3月30日発行の読売新聞にて報じられています。地元産大麦を使ってウイスキーを仕込む構想は、この時点で既に言及されています。

静岡市との共同記者会見で発表

2015年7月1日には、静岡市と共同記者会見を行い、静岡蒸溜所の発表を正式に行いました。その様子を報じる新聞記事の中でも、地元で大麦をつくる構想について書かれています。

地元での大麦栽培が、2015年秋に始まった

地元での大麦栽培が始まる直前、2015年11月の静岡新聞のインタビューの中では、地元での大麦栽培の計画が存在することをほのめかしています。

2016年、初のウイスキー用静岡大麦が収穫!

そして、2016年の収穫を間近に控えた時期の新聞記事。このとき、初めて地元で大麦を栽培していることを公表しました。静岡県内では、大麦の栽培はほとんど無いため、多くの人が興味津々で畑を訪れたそうです。

地元のテレビ番組でも、地元でスクスクと育つ大麦の様子をレポートしていただきました。

大麦の栽培をされた山本建材の山本社長にもご出演いただきました。

地元の大麦は収穫できたものの、500kgほどと1仕込みの半分程の量でした。大麦栽培の経験が無かったため、期待したほどの量は採れなかったのです。そこで静岡県内でわずかに生産されていた御殿場市の大麦と合わせて、1仕込み分に出来ました。

静岡県が開発した酵母も使用

さらに、静岡県の沼津工業技術支援センターで開発が進んでいた酵母の完成を待ちました。

静岡県は、日本酒用の清酒酵母の開発に秀でた県であり、これまでにHD-1をはじめとした優れた酵母を世に送り出し、静岡県は日本酒において「吟醸王国」と呼ばれるほどの地位を築き上げました。

麦芽の糖化に向いた酒造酵母の開発は2015年から始まり、静岡県内のクラフトビール各社、そして静岡蒸溜所が協力して、3年の期間を費やしました。そして2018年4月からモルト用酵母「NMZ-0688」の使用が始まったのです。

最初の仕込は3年以上かかって、2018年に実現

こうして静岡県産大麦麦芽と、静岡県産酵母を使った仕込みが実現し、2018年11月24日に初めて100%静岡産麦芽の原酒が樽詰めできました。初めて仕込めたのは、わずか1日だけでした。

最初のやりとりから、実現までに3年半以上もかかったのです。

この全国的に見ても画期的な試みは、静岡県内で注目を集め、メディアでも大きく取り上げられました。

静岡県の協力を得て、大規模栽培がスタート

本格的に造るには、もっと大きな規模で、しっかりとしたノウハウの元での栽培が必要でした。

翌2019年春からは静岡県庁の食の担当者、JA、農業従事者が集まって研究を始め、2019年の秋から組織的な栽培をスタートすることができました。

大麦の栽培もゼロからのスタートでしたから、当初は収量があがらず、苦しい立ち上げとなりました。それでも毎年、少しずつ知見を積み重ね、栽培面積を増やし、収穫できる量も増えていくようになりました。

世間はコロナ禍で停滞ムードでしたが、畑では大麦がスクスクと育っていました。

2022年には、とうとう静岡蒸溜所の年間仕込み量の1割をまかなうまでになります。ウイスキーの商品化はまだ実現していませんでしたが、その着実な歩みは農業界からも熱い視線が注がれるようになりました。

2023年からは、収穫量が大幅アップ

そして2023年は耕作に適した場所を見つけることができたため、前年の2倍もの収穫ができました。静岡県はクラフトビールでも全国トップクラスであり、今後はビールも含めた更なる展開の可能性が見えてきました。

国としても、国産麦芽の活用の検討が始まった

2015年にはウイスキーを100%国産麦芽で仕込むという発想はありませんでしたが、静岡蒸溜所がそのコンセプトを提唱・実践するようになってから、全国各地で同様の試みが続々と行われるようになり、最近では大手メーカーもこの流れに追従しています。

これを受けて、全国でウイスキー用大麦の栽培が始まっており、収穫後に麦芽にするための「製麦」という工程をどこで行うかということも、業界の大きな課題になっています。既に、製麦の内製化をスタートしているウイスキーメーカーや、単独での事業化を進めている組織も立ち上がり、ウイスキー業界の次なるうねりがやって来ています。

このような業界の動向を受けて、農水省や国税庁でも、ウイスキーやクラフトビールでの国産麦芽の活用の可能性について、検討が始まっています。

8年を費やして、5年熟成100%静岡大麦ウイスキーを発売

2023年11月、5年の歳月をかけて熟成した100%静岡大麦ウイスキーを、満を持してリリースしました。2015年に発端となる会話をしたときから、実に8年半かかりました。

2018年の最初の仕込みで出来た原酒は、わずかにバレル2樽だけ。そのうちのひと樽を、プライベートカスク・ディスティラリーリザーブとして、306本ボトリングしました。樽出しのカスクストレングスで、アルコール度数は62.4%を保っています。5年間という時間をかけて熟成をしたことで、しっかりとした味わいがあります。

このボトルは、弊社プライベートカスクのオーナー様向けに抽選販売が行われました。一般の方は、静岡県内のバーを中心に、全国のモルトバーで飲むことができます。

近い将来、100%静岡大麦ウイスキーは定番商品に

焼津市で2019年から栽培している大麦も、最初の仕込み分はウイスキーとして必要な3年間の熟成期間を満たし、製品化が近づいてきています。

将来的には、シングルモルト静岡のラインナップの中に、定番商品として販売することを予定しています。今後のさらなる展開をお待ちください。


ガイアフロー静岡蒸溜所
創業者 中村大航

ガイアフロー株式会社 代表取締役
ガイアフローディスティリング株式会社 代表取締役

1969年 静岡県清水市(現在の静岡市清水区)生まれ。

 長年、家業である精密部品製造会社の代表を務めていたが、2012年に大好きなウイスキーの本場スコットランドのアイラ島を訪問して、ベンチャーの小規模ウイスキー蒸溜所を見学したことがきっかけに、ウイスキーを自らの手でつくることを決意。
 ウイスキー製造に先がけ、2013年よりガイアフロー株式会社にて、ウイスキーの輸入販売事業をスタートする。翌2014年、静岡市玉川地区に蒸溜所の建設を決め、ウイスキー製造を目的としたガイアフローディスティリング株式会社を設立。 2016年、ガイアフロー静岡蒸溜所を竣工し、製造免許を取得、ウイスキーの製造を開始。静岡らしさの詰まったウイスキーを世に送り出すため、様々な試みを実践している。

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